久々に会った方から誘われた。

「え、なに温泉だって?」

「…だから、加賀井温泉」

「加賀温泉?」

「か・が・い、加賀井温泉だって。加賀は石川県でしょ? じゃなくて、長野県にあるの」

「どこ、それ? 聞いたことないぞ」

「そりゃ、まぁ、いわゆる “秘湯” だわな」

「いまどき、秘湯なんて。しかも長野県でしょ、信州でしょ。観光県だよ。人に知られてない温泉なんてある?」

「この、秘湯って意味はちょい違うんだなぁ。人知れずある温泉というよりは、何ていうか…そう、ディープな温泉ね」

「ディープ? ますます分からんよ」

「…行けば分かるよ。ケニー今度、富山に行くでしょ、仕事で。だから、途中でこのあたりで前の日に泊まってくれたら、そこの朝風呂に案内するよ」

たしかにディープな温泉だった。

「松代の街を抜けて北に出るんだよ」

「ここって、松代温泉? 長野市の側だよね。ここなら知ってるよ」

「…いや、松代温泉ではあるんだけど、これから行く所だけは加賀井温泉なんだよ」

「なんだそりゃ?」

「ほら、看板あるでしょ?加賀井温泉って」

「あ、本当だ。加賀井温泉って看板がある」

「でしょー。実はね、松代温泉は昔、加賀井温泉って呼ばれてたのさ。で、何故かこの一陽館だけはいまだに旧称で呼ばれているんだよ」

「じゃ、古い温泉なの?」

「開湯は鎌倉時代とも言われているけど、定かじゃないね。戦国時代には武田信玄の隠し湯だった。江戸時代にはね、地元農家の湯治場でもあったそうだよ」

「へぇ、かなり昔からある温泉なんだね。お、建物も… いきなりレトロな建物だな。休憩処?」

「持ち込みOKなんだ」

「へぇ、そうなの。売店とかは?」

「にゃい。750円で好きなだけ居てもいい」

「反対側のこの建物に自販機あるよ」

「ここが受付なんだ。入浴料はここで払ってね」

「このカンカンの中に?」

「オヤジさんがいる時もあるけど、まあ、お釣りがない時ぐらいかな、困るのは」

「ずいぶんおおらかだね。空カンに入浴料入れて、後はご自由にってかい?」

「あはは。それはちと違うな。こちらが内湯の建物。俺は何度も来ているからスルーパスなんだよ。でもね、初めて来る人にはオヤジさんからの ” 洗礼” があるからな。ニヤリ」

お金を払った所にいたオヤジさん。

『初めてかい。じゃ、中の説明と作法をね、話しておこうかね』

(以下、およそ10分、懇切丁寧に温泉の質、効能から源泉の位置、設備を事細かに教えてくれます。はい、かなーり細かく(笑))

『んじゃ、のんびりしてきなぁ、お兄ちゃん』

「お、お湯の色が。お湯の色が…ちゃ、茶色?」

「うわ、何このこの年季の入った湯桶はっ!しかもここもこんなに茶色っ!」

『黄金色って言ってもらえるかな? 毎分740リットル、炭酸カルシウムの含有量が多くて、こんなコテコテに固まるのさ。まるで鍾乳石だろ』

『だからさ、タオルがすぐに茶色に染まってしまうのさ。毎日入りに来る地元の常連さんは、タオルを見れば直ぐ分かるんだよ』

「お、おもしろいっ! 」

「ね、ディープでしょ。さぁ、入ろう入ろう」

「湯温は約40℃のぬる湯だから、加熱せずにそのままだよ」

「手のひらを5cm沈めるともう見えないや。タオルも…すぐに赤茶色に染まってしまうぞ。あっ、このプラスチックの風呂桶… 石灰華まみれだし。使えるの、コレ?」

「泥の中で風呂入っているみたいだけど、いい温泉なんだよ、あとね…」

「あと、何?」

「ここ、実は…」

「なんだよ、何?」

「この露天風呂、実は…混浴なんだ…」

「えええええっ ! マジですかぁ…」

誰もいなかったので、了解を取って写真を撮りました。ハズカシい…。

このあたりもおおらかです。もちろんマナーを守りましょう。オヤジさんはたまに湯桶の周りを見廻りに来ますので、声をかけてから…ね。

★女性の方へ。湯に浸かれば濃い温泉湯のためほとんど見えませんが、露天へは脱衣所からサンダルで少し歩きます。また、身体に巻いたバスタオルは間違いなく色が付きます。

内湯もあります。こちらは男性用、女性用が分かれています。

効能も抜群。温泉成分は普通の温泉の5-6倍!なので、長湯は逆に出来ないです、はい。

ただし、地元の常連さん達は1時間でも2時間でも入る人もいるそうですが。

ここまで琥珀色のお湯は他で見た事ありません。松代の他の温泉とは違う独特の湯。不思議です。

ちなみに最奥の旅館部は休館中。大正時代からある。宿泊は出来ませんが、『転校生 さよなら あなた』のロケ地としても使われました。

維持管理にたいへん手間のかかる温泉は一時閉鎖されたが地元住民の希望で再開されたそうで、そのおかげで今も素晴らしいお湯が楽しめるのでした。

●加賀井温泉

住所: 長野県長野市松代町東条55 〒381-1221

高速長野道・長野ICより約15分

営業: 8:00〜20:00 (入浴)

駐車場は無料、約20台

年中無休だと聞いていますが、年末年始は問い合わせてから行くのがよいと思います。