山の花の記憶 ④シナノキンバイ

たくさんあって憶えにくい『黄色の花』の中で一番大きく高山に咲く花

山に登る人にとって大きな楽しみなのが、高山植物。色とりどりの可憐なお花畑に咲く花たちの名前が分かればさぞ楽しいだろう… 誰もがそう思い図鑑片手に花を目的に山に行く。

向かったのは白山連峰の別山。白山本峰の南方6Kmに位置する標高2399,mの山だ。残雪を踏みしめ長い尾根を登りつけて登頂した別山の山頂で見つけたのは黄色い花。

(石川県・岐阜県 別山山頂 2021.6.11)

豪雪地帯のこの山では雪解け直後に一斉に夏の花が咲き、ほとんどの花は7月中に咲き終わってしまう。北アルプスなどに比べて標高が低い八ヶ岳や東北の飯豊・朝日連峰、そして上越の谷川連峰などと同様に高山植物の最盛期は6月下旬から7月上旬でアルプスよりも1か月ほどはやい。

(確か、これは… この前あそこの山でも見たんだっけな)

しばらくして頭の中が混乱してくる… 「えっと、ミヤマ、ミヤマ…キンポウゲ、じゃなかったキンバイ」

「あ、いや、シナノ? えっと、ダイコンソウなのかな? 」

同じ色の花は特にややこしい。特に山に咲く黄色の花の見分け方は最初のうちはどれがどれだったのか、一度は必ず迷うことになる。

ミヤマキンポウゲ、ミヤマダイコンソウ、シナノキンバイ、ツルキンバイ、キジムシロ、ミツバツチグリ、ヘビイチゴ、ミヤマキンバイ、リュウキンカ、エンコウソウ、ウマノアシガタ(キンポウゲ)… 挙げればキリがない。

どれも「ミヤマ」がついたりしているし、黄色の花は「金盃」=キンバイだ。慣れないうちは…ああ、ややこしい。

その中でまず、このシナノキンバイを覚えてしまおう。

高山にしか咲かず、他の花にくらべて大きい花なので、区別が簡単だからだ。

(北アルプス 西鎌尾根 2018.7.15)

よく見ると「違い」が分かる… 黄色い花たち。

(北アルプス 秩父平のお花畑。2018.7.15)

確かにミヤマキンバイなどほかの黄色の花と比べて花びらは大きそうだ。

(北アルプス 西鎌尾根 2018.7.15)

ところが花びらに見えるのは実は萼片(がくへん)で本当の花びらはもっと小さくて、雄しべよりも目立たない。

名前の由来は間違いなく長野県(信濃)に多い「金盃」草からきている。

確かに、すぐに思いつくだけでもこの花が咲く山々は、北アルプス・笠ヶ岳の杓子平や、南アルプス・北岳稜線、中央アルプス・木曽駒ケ岳千畳敷カールなど信州の山が多い。

(北アルプス 西鎌尾根 2018.7.15)

どうして山には黄色の花が多いのだろう? 素朴な疑問なのだが、これには単純明快な答えがあった。

黄色は花粉の色」なのだ。花粉は花にやってくる昆虫たちにとってはごちそう。つまり、全体を黄色にすることで、より虫を呼び込んで受粉をしやすくしようとする作戦なのだ。環境の厳しい高山帯、虫たちにとっても花にとっても選び選ばれるための生存競争の激しさが、花の美しさを作り出している理由だった。

間違いやすい黄色の花たちの区別のポイントをまとめてみたのがこちら。

ミヤマキンバイ

(南八ヶ岳 横岳稜線。2018.6.2)

シナノキンバイよりも花はひとまわり小さい。小葉は3枚で、シナノキンバイの葉ほど切れ込みが深くない。

(白山山地 三ノ峰から六本檜の稜線にて。 2021.6.11)

また、上の写真のように花びらの根元が橙色になる。

 

ミヤマダイコンソウ

(北アルプス 水晶岳稜線 赤ノ池付近。背景は薬師岳。2018.7.22)

ミヤマキンバイに比べて花茎が長く、葉が丸いのがポイント。花びらの先はミヤマキンバイ同様にへこむ。

 (北アルプス水晶岳稜線 2018.7.22)

ミヤマキンポウゲ

 

葉柄がひょろりと伸びているのはミヤマダイコンソウのようだが、葉の形が違い、また光沢がないのが区別のポイント。花の縁が波うつところもシナノキンバイやミヤマキンバイとは違う。

 

(白山山地 三ノ峰 六本檜にて。2021.6.11)

リュウキンカ

雪田のそばに雪解け直後から群落を作る点ではシナノキンバイと同じで、遠目に見ると区別つかない時も。

(白山山地 三ノ峰 黒坊上平にて。2021.6.11)

葉の形が全く違う上、萼片の形も少しスリムだ。こちらはアルプスの稜線のような風衝地にはまず咲かないし、標高ももっと低い場所にしか咲かないので区別はつく。

 

ボタンキンバイ

北海道・利尻島の固有種。萼片の数はボタンキンバイよりも多い。

(利尻岳鴛泊コース8合目付近に咲くボタンキンバイ。1989.7.13)

 

【シナノキンバイ】

キンポウゲ科キンバイソウ属。

和名「信濃金杯」

花の直径が5cmほどでとても大きく、群生するので山のお花畑の中でもよく目立つ存在。北海道から本州中部以北の高山帯に生える。花期7-8月。

田中澄江『新・花の百名山』64 鹿島槍ヶ岳  、80 笠ヶ岳

花言葉「恋・呪い」