シルキースノーの山頂は日本海から富士山までを望む大展望
冬、日本離れした雄大なスケールの展望を国内に探すとしたら、1番に挙げたいのは何といっても志賀高原・横手山だと思う。
広大な志賀高原には南北10キロの中に18のスキー場があり、横手山にはスキーリフトが掛かっていて積雪期でも簡単に山頂に行ける。
(同じ志賀高原の東館山山頂から遠望した横手山)
日本海から太平洋側の富士山までを一望する事が出来るだけでなく、北アルプスの銀屏風を北の端から南の乗鞍岳・御嶽山まで一望するそのロケーションの素晴らしさは、他に並ぶ場所を探すのは難しい。
しかも、標高はなんと2,307メートル。関東から北で、日光・尾瀬の一部の山を除けばこれだけの標高の山はない。スキー場としての標高も日本一。11月から6月まで滑走できる本格的スキー場は日本広しといえど志賀高原・横手山だけだろう(北アルプス・立山の雷鳥沢は残雪気限定のTバーリフトが設置されるだけ)。
雪質の良さは折り紙付き。標高の高さに加えて内陸、信州のど真ん中というロケーションのため、日本海近くのような湿雪の心配がほとんどない。4月も半ばになった時、新雪の後ではあったけれども冬同然のパフパフの雪に驚いたこともある。
そんなアスピリンスノーに加えてすばらしいのがその山岳展望。
日本離れしたスケール感の大展望は冬ならでは。
佐渡から富士山まで! 日本海から太平洋まで日本を縦に一望
熊の湯から国道を挟んだ反対側にある横手山第一リフト乗り場。
ここから標高差で約500メートルを3つのリフトを乗り継いで上がれば横手山の山頂だ。
山頂リフトを下りるとすぐに歓声を聞くことも多い。
リフトに乗っている最中は背中側で見えなかった北アルプスの大銀屏風がここで「ドン!」と視界に入ってくるからだ。
笠ヶ岳の三角錐の先には、長野盆地の奥に北アルプスの山々がズラリ勢ぞろい。
誰もがまず北アルプスに目がいくに違いない。そして左の端(南)から右(北)へと山並みを目で追っていくはず。視線を左から右へ移すにつれて、目に入る山々の山肌の白い部分が増していくのがわかるだろう。
北アルプスの白い山並みが尽きると入れ替えに視界に入ってくる碧色は海の色だ。
白いスノーモンスターが山肌を埋め尽くすその彼方に紺碧の日本海!
何と、佐渡島まで遠望できる。
上の写真・右奥に見えているのだが、ここから見えると思って探す人はほとんどいないだろう。
目を凝らしてみると、なだらかな焼額山の右手に中央に白く尖った三角錐の山容が海原に浮いているのが分かる。これが佐渡ヶ島の最高峰・大佐渡山地の最高峰・金北山 (標高1,171.9m) だ。
焼額山も広大な志賀高原のスキーエリアの一部、北の端だ。ここから見ると志賀高原のスキーエリアのスケール感を実感する。
御嶽山、乗鞍岳に始まり槍穂高、後立山連峰が北の白馬三山まで、北アルプスのほぼ全てが東から真横に眺められる。
北アルプス方面を目を凝らしてみてみよう。
槍・穂高連峰。右端に槍の穂先もはっきり見える。
近寄りがたい岩の牙城の穂高連峰だが、手前の常念岳にさえぎられて気が付かない人も多いかもしれない。
視線を北アルプスの稜線を北へ移してみる。
後立山連峰の核心部、鹿島槍ヶ岳や五竜岳付近。
鹿島槍ヶ岳の奥には剣岳が頭をのぞかせている。
さらに目を北に向けると白馬岳付近。このあたりはさすがに山裾まで真っ白だ。
北アルプスが果てると見えるのが、特徴のある北信の山たち。
頸城(くびき)山塊。
アルプスばかりでない、百名山50座を望める山
ここで、視線を南側にかえてみよう。
派手な北アルプスに比べると目がいかないが、浅間山だけは誰にでもそれとわかるハズ。
南北に連なる南アルプスや八ヶ岳連峰は真北から見るために北部の一部の山々しかみえない。
それでも北岳、赤岳とそれぞれの山域の最高峰が確認出来る。
富士山は奥秩父連山の金峰山と国師ヶ岳の間に頭をちょこんと出している。
さすがに太平洋までは見えないまでも、日本海から富士山までを一望出来るのだから「日本を縦に一望」できると言い切ってもウソではないだろう。
遠くばかり見てしまい、目の前にたおやかに広がる溶岩台地の先にちょこんととがった岩峰に興味を持つ人は少ないかもしれないが、これが四阿(あずまや)山だ。
右に盛り上がっている山は根子岳。そう、菅平からスキーでよく登られている山々だ。そう聞けば、夏の高原から眺めたたおやかな山容を思い出してその姿の違いに驚く人もいるに違いない。
横手山山頂は広く、山頂ヒュッテや熊の湯からのリフト乗り場から群馬県側に少し移動すると越後から遠く会津、そして尾瀬・日光の山並みが展開する。
ちなみのに誰もが知りたい『谷川岳』は残念ながら他の山に隠れてしまいここからは見えない。
北から東に望む山々はほとんどが北アルプスのようなアルペン的景観ではなく、森や草原、湖沼、火山地形といった極めて日本的な風景が特徴の中級山岳地帯だ(関東以北の国内最高峰である日光白根山でも標高は2,578メートル)。
『上信越高原国立公園』という大きなくくりになっているために名前を良く聞く山であってもどの山とどの山が稜線続きなのか、相対的位置関係が分かりにくい山域ではある。
こちら側の山をじっくり眺めているスキーヤーはあまりいない。
いるとしたら、間違いなく山ヤだろう。
日本一高い場所にあるパン屋さんで楽しむ山岳展望
スキーヤーにはおなじみの横手山頂ヒュッテ。宿泊すれば朝夕のモルゲンレーテやアーベントロートに染まる白い山々の眺望を楽しむことが出来る。
ここには日本一標高の高い場所にあるパン屋がある。
もう30年以上も志賀高原に通っているが、ずっとこの場所で営業している。
今のご夫婦は3代目で、創業は1952年だというからびっくり!
誰もがオーダーするのが名物のボルシチ。特に冬は体が温まってありがたい。
一年を通して人が普通に住んでいる家がある場所としては日本で最も高いのでは?
ヒュッテにはテラスがあって、パンやボルシチに舌鼓を打ちながら大展望を楽しめる。
巨大アイスクリームのように見えているのは志賀高原の最高峰・裏岩菅山 (2,341m)。 横手山よりわずか36mだけ高い。
寒さに震えることもなく、コーヒーを楽しみながら絶景写真も狙えてしまうのだ。
ヒュッテの裏側からはのっぺりした山が遠望できた。
これがよく聞く苗場山(頭の中でどうしてもユーミンがリンクしてしまう)。
これだけの山岳展望、深田久弥『日本百名山』のうち50山が見えるというからなかなかのものだ。
おいしいパンとボルシチをいただき、山の展望を満喫して十分満足…って、ここはそういえば場所スキー場だった。そう、滑りにきたのだ。肝心のスキーを忘れてしまうほどに、滑りだす前にすでにおなか一杯になってしまった。
かんじんのスキーの滑りは…
山頂ヒュッテをベースに滑るには群馬県側の渋峠側を滑るのがいい(渋峠スキー場)。志賀高原で一番遅くまで滑走出来るゲレンデで、榛名山に向かってアスピリンスノーの斜面を気持ちよく滑り降りるのは気持ちがいい。
ここはテレマークで気持ちよく滑るのが最高。渋峠と山頂の間を何度も滑り、疲れたら山頂ヒュッテで一息入れる…
そんな過ごし方が横手山の冬の醍醐味。
じっくりステイしたい横手山
志賀高原の良いところは都会の喧騒から遠く離れた世界で冬の静かな自然を満喫できるところ。
スキーだけなら白馬や上越にも雪質のよい広いスキー場はあるけれども、これだけ雄大な山岳眺望を存分に満喫できる場所はないだろう。もちろんコンビニや居酒屋などは一ノ瀬など限られた場所にしかないので、利便さには劣る。
それを補って余りある大自然の中で心置きなく身をゆだね、楽しむ冬のマウンテンリゾート。
海外のスキーリゾートに匹敵する唯一のスキーエリアとして冬の志賀高原は十分引けをとらない素晴らしい場所だろう。
(夕暮れ近くに見た槍・穂高のシルエット)
【志賀高原 横手山】
●志賀高原内には無料バスが巡回している
●横手山頂ヒュッテ
http://www.yokoteyama.com/