その瞬間、たくさんのハトが、新年の青い大空に羽ばたいていきました。
手に今年初めて引いたおみくじを握りしめたケニー。
中を開け、書かれた文字を何度も読み返してから空をみあげたのでした。
そのおみくじに書かれていたのは…
実は日本三大観音である大須観音
ここは名古屋市内の中央にある大須観音。
今年は、正月も松の内を過ぎたのにまだ初詣にも出かけていませんでした。
今日は月に1度通っているこの近くのY療院さんへ来たので、足を伸ばして数分のところにあるこの場所までやってきました。
ここ、大須観音は、観音という名前の通り神社ではなく、お寺。
真言宗智山派の別格本山。
実は日本三大観音の霊場に数えられる、名古屋いや中部地方でも指折りの名刹(ほかの2つは東京の浅草観音と三重県津市の津観音)。
初詣には何と35万人の人がここ、大須観音にお参りします。
また、2月3日には節分会が行われ、一般の人もヤグラの上から豆が巻けるので大勢の人で賑わいます。何と、「鬼は外」の言葉が禁句なのが大須観音での豆まき。開山の祖が神さまからたまわった鬼夜叉の面が寺宝になっているためです。
門をくぐり、すぐ正面にある大きな建物へと階段を上がります。
この建物の名前は「大悲殿」。
観音菩薩様の別名は「大悲」。
大衆を救おうとする菩薩の慈悲の心を表した言葉。
なので観音菩薩の御本尊を祀る本殿の名前が大悲殿です。
本殿に入るとすぐに参拝出来ます。長い参道もなければ本堂も鳥居からすぐの場所。
ですから、人が列をつくっていなければ正味10分もあれば参拝出来てしまうのがいいところ。
家康が守った隠れた国宝の宝庫
実は大須観音には国宝に指定された『古事記』の最も古い写本「真福寺本古事記」があります。これを含め所有する国宝の書簡は4点、古書簡の総数は何と1万5,000点 !
大須観音の所有する貴重な古書類は「真福寺文庫」(大須文庫)と呼ばれ、京都の仁和寺、根来寺の文庫と合わせて本朝三文庫もしくは日本三文庫といわれます(残念ながら常時公開はしていません)。
このような貴重な古書を多く有していたため、織田信長や徳川家康らの寄進を受けて繁栄してきた大須観音。元をたどれば岐阜県羽島市大須にあったお寺、真福寺の塔頭寺院・宝生院が寺の由来です。海抜ゼロメートル地帯で常に水害の危険と隣り合わせの地にあった貴重な古書を守るため、家康がこの地に移転させたため、この土地の名前ともども大須観音となったわけです。
おみくじの半分は「凶」?
知る人は知っている。
おみくじを引くと、東京・浅草の浅草寺と並んで「凶」が出る確率が高い、と言われているのが、ここ大須観音。
どこの神社にも必ずといってよい程おみくじはあり、大吉から凶まであるのはあたりまえです。
ただ、やはり大吉や吉が出るのが、まあ普通で「凶」はめったに引いた事がないと思います。
ここ、大須観音はどうでしょう?
Y療院さん曰く、
『あー、大須観音さんね。おみくじ引いて、凶が出ても、気にしちゃダメだよ』
『ここの観音様は簡単に手を差し伸べてくれないからね。駆け込み寺とは違って突き放すタイプだから』
えええ、何それ! 神さまって、困ったときに救済してくれる神のような存在じゃないの?(あ、神は神だった)
『カップルそろって凶が出るのも結構あるよ。
あと、家族全員で引いてお父さんだけ吉で他はみんな凶だったのも聞いたことある』
… そんなに恐ろしく半端ない確率で「凶」がでるって、どんな観音様だ?
チラホラと噂には聞いてはいたけど、ここまでとは。
大須観音さま、ハンパないって!
そこで、素朴に思ったことを聞いてみました。
『じゃ、地元、大須に住んでいる人は大須観音ではおみくじ引かないんですか?』
ちょっと考え込んだ後、整体の先生はこう返事を返してくれました。
『もちろん初詣は大須観音に行きますよ。
おみくじだって毎年引いてて、去年はやっぱり凶だったかな。
これはね、吉とか凶とかじゃ、ないの。ここの観音様は』
「凶」がたくさん出るわけは
聞けば、大須観音の開祖はあの後醍醐天皇も帰依した僧・能信上人。この寺の開創に当たり、伊勢神宮に100日もの間こもって祈り続けました。そしてようやく多くの神さまの中から苦難の声をすくい取り救済するという観音菩薩を祀り人々 の声を聞きなさいとの神の御声を聞いたのです。
この能信上人の苦労がために、ここの観音様は自らが救いの手を差し伸べるより、むしろ参る人々への叱咤激励をされ、悔い改めて自らの行いを見直すよう、お言葉をかけて諭すのです。
だから、簡単に「大吉」を大盤振る舞いなどせず、「凶」のおみくじで大切なメッセージを伝えるのでした。
『「凶」がでるほうが神さまの声がはっきりと受け取れるから、「大吉」よりもいいという人も結構多いよ。』
なるほど… 一理あります。
では、ケニーもおみくじを引いてみよう。
「中吉」でした。
けれども、おみくじは書かれている神さまの言葉が大事。
神さまの言葉の意味をじっと読んでかみしめて… そして見上げた空にハトがいっせいに飛んだのでした。
●大須観音への行き方
地下鉄 名城線 大須観音駅下車 徒歩5分
〒460-0011 愛知県名古屋市中区大須2丁目21-47
電話 052-231-652
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