Apple Watch での心拍数計測
先に、”山で『突然死』しない” ためにすべき事を考えました。
①登山前
●事前に登る山とコースを自分の体力に照らし合わせて確認し、無理のない予定を立てる
●夜行日帰りなどは出来るだけ避け、十分な睡眠と食事をとってから登山を始める
②登山中
●ウェアラブル端末などで心拍数を確認しながらゆっくりとペースを守り、適時休みながら登る
●行動中は、十分なカロリーと水を補給する
この中で、前回詳細な検証を書けずにいた登山中の心拍数について、この記事では掘り下げて記しました。
利用するログは前記事と同様、信州戸隠の高妻山を往復した時のものです。
Apple Watch を購入したのは心拍数の計測が出来るばかりではなくアプリで管理が容易であったのが大きな理由でした。
もう一度、ルートをおさらいしてみます。
行程を通して心拍数が上がった状態、その時の行動や水・食べ物の補充状況を見ていきたいと思います。
Apple Watch の機能の中で『ワークアウト』を使いました。
時計を身に着けているだけで自動計測してくれます。
計測結果の例(最初のワークアウト、戸隠牧場から一不動避難小屋)です。
休憩毎に区切ったので、ワークアウト回数は4回(ただし、うち3回目は山頂での休息、撮影など)。総歩数36,647歩 、 歩いた距離は 25.18Km というのがこの日の結果でした。
計測の結果は? 最大心拍数はいつ・どこで記録されたか?
さて、4つのワークアウトを時間を追ってみてみます。歩いた場所の状況のコメントを加えています。また、栄養・水分補給の摂取状況も追記。これらが心拍数に影響があるといわれているためです。
心拍数単位:bpm=(beats per minutes)
朝、戸隠牧場を発ってから稜線までは沢沿いの登り。この間はあまり心拍数が上がっていません。
コース中はいくつもの危険個所があります。滑りやすい滝のそばを注意しながら歩いたり、大きな岩を鎖でトラバースする箇所もあるため、危険箇所では歩くペースが結果的に早くならないからでしょうか。
危険箇所を過ぎると、沢源頭の急斜面を登り切り、一不動避難小屋に到着。この急坂は短いのですが、心拍数は130 bpm近くまで上昇しています。
ここまで2時間近く。
口にしたのはチョコやキャラメル程度。水は沢沿いであったので何度も口を潤せて脱水症状などにもなっていないはずです。
この日はいままでと違って秋の冷たい高気圧圏内に入っていました。南岸には台風が接近していましたが、空気は比較的涼しく感じました。
暑さは大敵。熱中症・脱水症状となれば血液がドロドロになる、つまり突然死の原因である心筋梗塞・脳梗塞を起こしやすくなるからです。
暑さは、気温が低い3,000mの高山よりもむしろ高妻山のような中級山岳や低山のほうが怖い。
前夜初の寝不足で、神経が昂っている時に一番「突然死」の危険性がある要素は水不足。出発前に十分水を摂取し、稜線に出るまでに経口補水液500mlを1本空けています。(前夜発はどうしても朝イチがキツく、極力避けたい日程)
歩き出してすぐが最も要注意。これ以上なく慎重に心拍数を確認しつつ、水の摂取を怠らず万全を期します。
心拍数が上がりすぎないよう、こまめに足を止めてペースが上がりすぎないように心がけました。
一不動からは起伏のある尾根を縦走するルートになります。コースタイムが9時間を超える長い本ルートでは、どうしても先を急ぎがちになって速足になります。
尾根に出て、歩きやすくなると余計にピッチが上がってしまうものです。
半面、景色がよくなる分だけ写真撮影などで立ち止まる事も多くなりがち。
そんなときは、極力ザックも一度下して、ついでに軽く食事を摂るのもよいでしょう。
この時は、朝出発前に口に入らなかったサンドウィッチをほおばりました。
ようやくお腹もすいてきたのです。
ログによると、稜線に出るまでに356Kcal を消費しています。
ご飯やパン1食分ではほぼ200Kcal程度しかありませんから、これにタマゴ焼き、もしくは塩シャケ1/2、あるいは蕎麦1玉を添えると帳尻があう消耗量です。
たった2時間程度登るだけで… サッカー、テニス、水泳などよりも登山行為のメッツ数(*)は大きいのが実感出来ます。
サンドウィッチだけでは消費したエネルギーを補うのに十分ではない事は明らかでした。
(*)メッツ数
”安静時の酸素摂取量3.5ml/Kg/分を1としたときにその何倍のエネルギーを消費出来たかで運動強度を示した単位。座っているときは1.0メッツ。着替え、家の中を歩くのは2メッツ。野球は5メッツ。サッカーが7メッツ。ハイキングは6メッツ、縦走登山は7メッツ、テント泊装備での縦走は8メッツ程度とされ、中程度の水泳やサイクリングと同程度。”
この日、一番大きな心拍数を記録したのは、最後の山頂への登り。かなりの急登で鎖やハシゴが続き、大きな岩の段差をヨイショとあがる場所も相当あります。
しかも、長い時間を歩いてきての急登。直前の八丁ダルミで休憩をして水と食料を十分に補給してから登り始めました。ここでカロリーメイトも食べています。
この登りは日が昇ってから時間もたち、太陽は頭の真上。いちばん汗をかいた区間でもあります。
時計の心拍数を気にしながら、あせらず、そして一歩一歩高度を稼いでいく…
かなりおおざっぱですが目安として、最大心拍数 (220-年齢)の70-80%が有酸素運動として気持ち良い程度だといわれています。
ですが、この時はそれ以上に心拍数は上がってしまって、無酸素運動の領域に届いている状態が30分以上続いたことになります。登りでは時間などではなく、心拍数の上昇度合いで休みのインターバルを設定する事も考えましょう。
今回はもう少し適時休憩を入れるべきだったかもしれません。登りでは一度足をとめると、再び歩き出すのがおっくうになりがちで、なるべく一気通貫で上がってしまおう、との心理が働きます。
ですが、私の病上がりの心臓の負担を考えると、休憩間のインターバルを短くすべきではないかと反省しました。
予想よりも消耗する下山
絶景をたのしみながら高妻山山頂では1時間ほども休憩していました。上のログは山頂滞在最初の10分だけを計測したものです。歩く足を止めるとすぐに心拍数は下がって安定しています。
山頂に着くと、景色がひろがり、また達成感からどうしてもはしゃいでしまうものですが、まずは深呼吸したり、クールダウンにも気を遣う事は大事だと思います。
また、食事をとったりと大休止しがちですが、太陽に照らされて意外と体力を消耗しがちなので、日よけ対策をしてしっかりと水分も補充が必要です。
下りは心拍数の上昇はほとんどありません。これは予想出来ていました。
問題は、下りでの消費カロリーが意外と大きい、という事でした。
確かに、行きのトータル消費カロリー 356+340 = 696 kcal に対し 420 kcal。登りの60%程度の消費カロリーレベルとなります。
実はもっと少ないのかと思っていました(半分以下、30%ぐらいかも、とまで)。
この理由は下りは下りで、足筋肉をかなり使うためだと思われます。この点は今後より注意を払いたい点だと感じました。
下りきってしまえば、麓でうまいビールとともに夕食が待ってる事も多いでしょうが、疲労困憊してしまって朝同様に食欲がわかない人もいるようです。
下山途中では、非常食などに手をつける必要はないにせよ、ある程度栄養を補う事には気を配るべき時間でしょう。
習慣にしたい。
たった1度のログだけですので、導き出される結果からの考察は十分ではないかもしれませんが、今後の登山を計画するにあたってより気を付けるべき点もわかってきました。
山のコース取りは、”単純に登って下る” というものではありません。長い下りの後、午後になって大きく登り返さなければいけない南アルプスのようなキツいコースどりを必要とされる山もあります。
疲れないような歩き方・休息の取り方に加え、栄養・水の補給をどれだけ、どのタイミングで行うか。
まずは山に行く前に自分の頭でシミュレーションしてみて下さい。そして、下山してからも適切に行えたかどうかを振り返るのも大切です。
次からは、日頃から心肺能力を含めた山の総合体力をつけるためには何をしたらよいかを書いてみたいと思います。
週末の登山だけではなかなか向上しない『登山体力』。
登山の運動強度(メッツ)は野球やサッカーよりも大きいのですから。
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