先日、物置の奥から出てきた古いカセットテープが2本。ラベルに書いてある日付はどちらも「1983年」。英語のタイトル「E.T」「スター・ウォーズ ジェダイの帰還」…どちらも1983年に日本で相次いで封切られた映画の題名だ。

1980年代といえば、ジョージ・ルーカスとスティーブン・スピルバーグの2代ハリウッドヒットメーカーの黄金期。スター・ウォーズやインディ・ジョーンズといったシリーズ物が次々に封切られ、何度も何度も映画館に足を運んだ。当時、岐阜の片田舎に住んでいた僕は映画館に行くだけでも大変だった。今と違って簡単に学生だけで名古屋に出かけるのも難しく、親を説得して近くの駅まで送ってもらうか、何時間もかけて自転車で映画館のある街まで出掛けたものだった。そう、映画を1本観るだけで丸一日がかかった。

映画好きは親父の影響。テレビで放映される沢山の映画、007や西部劇など良く見ていたのを覚えている。気がつけば親父の横に座って同じ画面に見入る僕がいた。いつしか映画は僕の中で大きな存在に育っていった。

テレビの映画放映から、劇場で封切りされる新作映画に興味を持つには時間もそれほどかからなかった。新作封切りの時には何ヶ月も前からその日を指折り数えて楽しみに待ち、前夜は興奮でなかなか寝付けない。今と違ってインターネットで事前情報が何でも流れる時代ではなかったので、唯一の情報は『スクリーン』『ロードショー』と、少し学生にはハードルが高かった『キネマ旬報』の3つの月刊映画雑誌だけ。ほとんど毎号買って何度も読み返して封切りの日を待ったものだ。

ようやく迎える封切り。初日は心待ちにした熱狂的ファンが集まるのは今も昔も変わらない。当時は全指定の座席なんて仕組みはないし、前売り券を握りしめて少しでもいい席を取ろうと列に並んだ。予告編が本編上映前にかかるだけでもう胸が高鳴り、当時「ジェットコースタームービー」と呼ばれた2大巨匠の新作を毎回大興奮しながら見ていた。

その興奮は映画を見た後もずっと尾を引き、毎日のようにシーンを思い出し、夢に見て「もう一度見に行きたい」との気持ちが大きくなる繰り返し…

あの時、インディはなんて言ってたんだろう? 敵に捕まったのに、何を話していたんだ? あのダース・ヴェイダーの台詞、凄みがあったなぁ…でも何て言っていたんだ?

そんな「知りたい」気持ちがまだ10代の僕の心を突き動かした。再び映画館に向かう僕はかばんの中にはこっそりとあるものを忍ばせるようになった。

悪い事とは知りながら…

当時、録音機材といえば、”ラジカセ” だ。そしてカセットテープでレコードからダビングが普通。CDすらまだ無く、ビデオレンタル店は出来始めたばかり。ビデオは店頭で買うと何と1本が1万6,000円もしたのを覚えている。

もう時効なので書いてしまうが、どうしても銀幕で俳優が話していたセリフが気になりラジカセをこっそり映画館に持ち込んで、全編を録音していたのだ。片面に録音出来るのは最大60分。”オートリバース” 機構(片面録音が終わるとテープが自動でひっくり返りもう片面の録音が始まる仕組み)が付いてない安物のラジカセしか持っていなかったので、上映の最中に「ガチャ!」と片面録音が終わった音がすると、暗闇の中でゴソゴソとテープを裏返して、再び録音スイッチを押したものだ。もちろん許されない事なので、周りを気にしながら。しかし気になる映画の画面からも目を離したくないので、いつも手探りの冷や冷やしながらの作業だった。悪い事している意識はあったが、好奇心には勝てない。僕が陣取ったスクリーンに一番近い最前列の席は画面に近すぎて、封切りから上映期間も1ヶ月を過ぎるとほとんどそこに人が座っている事はなかった。

1人最前列でこんな事をして持ち帰った録音テープ。マイクなどで集音している訳でもないので、雑音も沢山入っていた。それでも毎晩、受験勉強といって机に向かう時はほとんど映画館で録音したテープを聴いて、悦に入っていた。同級生のほとんどが当時「オールナイトニッポン」を聞いていたのに、だ。僕は大画面から聞こえていた銀幕のスター達のセリフを聞いて、何度も自分でそれを繰り返して、まるで自分が彼らになり切ったように悦に入っていた。

インディも、ダース・ヴェイダーも話していたのは「英語」のセリフだった。

あれから30年以上。その間にメディアは大きく進歩し、ラジカセやビデオはブルーレイやDVDに置き換わり、レンタルすればわずか100円程度。日本語も英語のどちらでも鑑賞出来る上、字幕のセリフもそのまま英語のテロップが写し出される。

僕が眠い目をこすりながらも机で一生懸命に聞き取ろうとしていたあの時のハリソン・フォードのいつものボソボソ声のセリフ。どうしても聞き取れなかったあの言葉はもう間違えようもない時代。

今でもたまに1本の映画をレンタルしてきて、セリフを全部書き取ってみる。変わったのは、インディ・ジョーンズがスパイダーマンやアイアンマンになっただけで、今も悦に入りながら銀幕のスター達のセリフを口にしながらテレビの前でリモコンを触っている映画好きのオヤジが一人…

映画好きの親父を見て好きになった映画。それを通して身につけた英語。そしてずっとそれで仕事をして来た。これでメシを食べて来た。もちろんガッツリと勉強した時期もあるけれども、「やらなくてはいけない」と誰かに押された事はない。単に好きなだけ。

子供に何かを伝えるのに、意外と親父の背中は効くものだ。映画も英語も親父の背中を見て覚えたようなものだ、と思う。他に山もスキーも影響を受けた。でも親父はただ楽しそうにしてるだけで、何も僕に押し付ける事はなかったのだ。

さて、今も画面見ながらリモコンをガチャガチャさせているこちらの「オヤジ」は良き「親父」であるのだろうか。え?どうなんだ? 俺の息子よぅ…