東京・上野の国立西洋美術館でいよいよ始まった『ルーベンス』。出だしは好調のようです。同じく上野の森美術館での『フェルメール展』とあわせて、対照的な17世紀ヨーロッパを代表する画家達2人の作品が同時に楽しめる、美術ファンにはたまらない秋です。

フェルメールが繊細さと陰影の画家であるなら、ルーベンスはダイナミックで派手な色彩の画家。

フェルメールが寡作の画家であれば、一方のルーベンスは美術史上1、2を争う多作(工房作品も多い)。30数点の作品しか残っていないフェルメールに対し、ルーベンスが生涯に描いた作品は1,500点を超えるとも。

フェルメールが長い間、「忘れ去られた画家」で貧困の中で没したのに比べ、ルーベンスはヨーロッパ中の王族や宮廷、教会が得意先で、外交官まで兼任して大きな工房を持った成功者。

美術史において一番成功した画家でしょう。という事は今風に言えば、お得意様が喜ぶ絵を描き続けたから成功したのだとケニーは理解しています。

ルーベンスの描く女性たちは、相当にふくよかで、脂肪がたんまり付いている。

同じような脂肪でぶよぶよの豊満な女性ヌードを晩年に沢山描いたルノワールの表現と違って、ルーベンスの絵の女性たちは脂肪だけでなく、まるで男性顔負けの筋肉がその下に隠れているのがよく分かります。

これが当時のお得意様であった王族たちが見て喜んだ裸婦像だと思うと、正直ちょっと引いてしまいます。

これならルネサンス時代のティツィアーノやゴヤの描いた官能的作品に描かれた女性たちのほうがいいなぁ…

そんなルーベンスの代表的な作品の一つ、『レウキッポスの娘たちの掠奪(りゃくだつ)』(1639)

ミュンヘンにあるアルテ・ピナコテーク所蔵のギリシャ神話に題をとった絵です。

ここに描かれているのはレウキッポス王の2人の娘達、ヒーラエイラとポイベを強奪する荒々しい男たちがまさに事に至る瞬間。

娘達も相当に筋肉質ですが、彼女たちをやすやすと力ずくで馬上から奪い去る一見、勇敢な戦士ともとれる2人の男たち。

今の世の中では大変な犯罪です。

いくらお得意様の依頼でも、こんな醜い犯罪シーンをルーベンスに描かせたのは誰なのでしょうね。

ルーベンスも気が進まなかったと思いますが、画面の構成力はお見事!としか言えない程まとまっています。

掠奪のダイナミックな瞬間を捉えた肉体描写とあわせて、この絵は皮肉にも彼の代表作の一つとなりました。

残念ながら今回の『ルーベンス展』には出展されませんが、ケニーはミュンヘンで鑑賞した事があります。

アルテ・ピナコテークの巨大な「ルーベンス・ルーム』の中ではそれほど大きくない作品ですが、インパクトの大きなこの絵はひときわ目立ち、どこにあるのかすぐ分かりました。

さて、誘拐と婦女暴行を働いた、この許しがたい男達は誰だかご存知でしょうか?

彼らは実は兄弟。

なんとレウキッポスは彼らの叔父だったというオマケ付き。

名はカストルとポリュックス。そう、これからの季節、冬の天上に輝くあの「ふたご座」の兄弟たちです。

実は彼らはゼウスがこれまたスパルタ王妃レダを白鳥に化けて交わり出来た卵から生まれた不倫の落とし子たち。

そしてレウキッポスの娘達を誘拐した後、事もあろうか結婚式まで兄弟一緒に挙げてそれぞれ妻にし、子も出来ます。

しかし、事実がバレて弟のカストルは徒弟の槍で刺され命を落とします。

悲しみにくれる兄ポリュックスが父ゼウスに頼んで夜空に輝く星にしてもらったのがふたご座なんです。

この兄弟愛の物語の部分だけはよく知られてはいますが、そこに至る知られざる理由は決して愛情に満ちた話ではなく、犯罪者が罪を犯し、叱責された上で殺されるというエゲツない物語。

ある意味、犯した罪の当然の報いを受けたとも言えます。

どうです? 冬の夜空にロマンチックに見上げる星座の2人が、実は婦女暴行犯達だったなんて…

こんな話を聞いてしまったら、可愛い子供の双子ちゃんを星座に思い描いていた人には、ルーベンスが描いた兄弟が共同で女性たちを奪っていくヒゲ面の男たちを重ね合わせるとショックでしょうね。

せっかくのイメージが壊れて、思わず夜空に向かって石でも投げてしまいそう。

でもね、実際は絵の依頼者もルーベンスも、そんな男たちはどうでも良くって、当時には一番魅力的だった女性像として肉感たっぷりの裸婦を描いて、ただ鑑賞したかっただけなんだったと思いますよ。

絵の中心はどう見てもレウキッポス王の娘達で、描かれているスペースも男たちより大きいし、当たり前のように裸だ(笑)。

現代に置き換えれば単にエッチなものを見て目尻を下げているどこにでもいる助平な男の1人、それがルーベンスだった。

それが多作のモチベーションだった…なんて思います。

展示会に出かけて、絵を描いたルーベンスの気持ちに想いを馳せてみては?

でもスリムな女性がタイプの男性諸氏には、ルーベンスの絵はお腹いっぱいかも。

▶︎こちらもお読み下さい。ルーベンス、実はコピペも?

『教科書は教えてくれない。ルーベンスがラオコーンをコピペしていた事を。』

(『レウキッポスの娘たちの掠奪』の写真はアルテ・ピナコテークにて撮影 by ケニー)

★2018/10/25はてなブログ投稿記事を移動・再編集しました。