ここはヒマラヤ?と一瞬思う背後の山。ここまで優雅に雪の衣を豊富にまとった山は世界広しと言えどなかなかありません。この山の名前はマウント・クック。

『地球の宝石箱』と呼ばれる大自然の宝庫、ニュージーランド(以下NZ)。自然豊かな南島には無数のトレッキングコースがあり、日本からも多くの人が訪れています。フィヨルドランド国立公園と共に人気を二分するのが、この国最高峰マウント・クックのあるクック山国立公園。南半球の夏、12月から3月にかけてがベストシーズン。日本では見られない氷河も高緯度に位置するため、NZでは標高700メートルあたりから見られます。マウント・クックの標高は日本の富士山とほぼ同じ3,724メートルですが、ヒマラヤの6,000メートル級山岳と同じ自然環境なのです。

ヒマラヤ6,000メートルと同じ山岳風景を楽しめるNZ有数の好展望ルート

コープランドトラックの最高地点であるコープランド峠の標高は2,150メートル。日本の上高地から日帰りハイキング出来る徳本峠の標高が2,135メートルとほぼ同じです。

標高だけで比べると何だか簡単に行けるコースのように思えますが、前述したようにNZの森林限界は低く、標高700メートル付近。ですので、日本より2,000メートルブラスされた気象環境だと思って下さい。絶対標高は変わらないので高山病のリスクはそれ程でもありませんが、そこは岩と雪の世界。例えると北アルプスの残雪期頃のイメージです。

注)2018年現在、東のマウント・クック村からコープランド峠への岩尾根は崩壊が激しく今は完全にクライマーの領域となっているようです。この記録とは異なり今は立ち入る事すら危険です。

出国前に探しましたが、コープランドトラックの日本人の踏破記録は有りませんでした。ガイドツアー企画でもまず見た事がありません。数多いクック山国立公園のトレッキングコースの中で、このトラックが他のどのコースとも違うチャレンジングなルートとだけは知っていましたが、結局、現地到着後の情報収集後のチャレンジとなりました。

コープランドトラックが困難な理由は;

【1】急傾斜の雪斜面を登るため、トレッキングルートとしては例外的にアイゼン、ピッケルが必要。

【2】サザンアルプスの主稜線を越えて西海岸に出るため、周回コースが取れない。

【3】西海岸にはバスが走るが便数が非常に少ない。降りた国道6号線で人が住む一番近いフォックス氷河村まで26キロ。

それでも、コープランド峠から見るヒマラヤ6,000メートル級のマウント・クックの巨大な南壁と雪をまとった優美な山容、サザンアルプス主稜線からの大山岳パノラマはその苦労を補って余りある魅力で、他のNZのトレッキングコースでは絶対に味わえません。

国立公園事務所によれぱ年間300-500人程の人がタスマン海に向けてコープランド峠を越えるとの事でした。

注)この数字はケニーが登った当時のものです。トレッカーが不用意に入り死亡事故も起きていて、2018年現在、一般のトレッカーがマウント・クック村からコープランド峠に登るのはほぼ不可能です。

日程的にはベースとなるマウント・クック村から3日間の工程で西のタスマン海に抜けます。日本から往復で計画しても何とか1週間あればトライ出来ますが天候に恵まれる事が出来ないと難しい日程です。

(遊覧飛行から見たマウント・クックの全容。手前がフッカー氷河。)

まず目指すのは氷河末端のフッカー小屋

【1日目】マウント・クック村からフッカー谷をフッカー小屋まで

南島のゲートタウンであるクライストチャーチから5時間のバスで到着する登山の拠点となるマウント・クック村。ここで何はさておき、国立公園ビジターセンターと登山ガイドショップ「Alpine Guides 」を訪れて、コープランドトラックの最新情報を入手します。特に天候とコースの状況については必ず問い合わせます。マウント・クック国立公園は非常に雨の多い場所で、年間何と149日にもなるからです。雨は長く降りませんが、2.5日に1日は雨という多さなので準備は万端に。

ハーミテージ前から出発します。初夏はルピナスが咲き乱れる花畑の中を抜け、モニュメントまでは快適なハイキング。その先は氷河が運んで来たガラガラの砂礫を歩きます。氷河の縁につけられた道は歩き難いのですが、展望は終始開けているので気持ちいい。

フッカー氷河の末端付近に到着。

氷河とは言うものの砂礫に覆われて黒い。氷河が溶けて水が溜まった氷河湖(ターミナルレイク)の奥に大きくそびえるマウント・クック。踏跡はクックに向かってこの谷の奥へ続きます。フッカー小屋まで約2時間。小屋は定員12名と小さいですが快適でした。

注)氷河の崩壊が進み、今やフッカー小屋はモレーンの上に取り残されたような状況。氷河湖より先は危険です。

岩のリッジを急登、雪の大斜面へ

【2日目】フッカー小屋からコープランド峠を越え、ダグラス・ロック小屋まで

このルートのハイライト、峠越えの日です。

実際に歩いた経験では、コープランドシェルターまでは岩尾根の登りで急なリッジですが夏季ならば降雪直後でなければ雪は無いはずです。問題はシェルターから峠までの152メートル、35°の雪の斜面。基本的な雪上歩行が出来れば峠には登りきれます。ただし急な雪斜面のため滑れば危険です。雪のコンディションが悪い時は引き返した方が賢明です。

フッカー小屋からはひたすらコープランド峠へのリッジを登ります。注)2018現在は崩壊のためトレッカーでは登山不可能

フッカー谷の展望は素晴らしい。右奥にセアリー山脈の山々、中央に小さくセバストポール山 (1,468メートル)と遥かに望むプカキ湖。

コープランド峠へと続く岩稜(リッジ)を登るケニー。背後に見える稜線まであと一息のところですが、実はここからがルートの核心部。急傾斜の雪の壁が待っていました。

峠はメイン・ディバイド(大分水嶺)と呼ばれるサザンアルプスの主稜線、標高2000メートル。麓のマウント・クック村から見上げていたセフトン山やフットスツール山に連なる稜線に立つのは感激です。セフトン山は天を突く三角錐に姿を変えて見事(右奥)。

ここからは広いカールのような谷を西海岸へ下ります。雲海の中に入るとガスの中。峠からは延々とダグラス・ロック小屋へと4時間かけて下りました。

岩と氷の世界からタスマン海へ

【3】ダグラス・ロック小屋からウェルカム・フラット小屋をへて国道6号線、フォックス氷河村へ

丸1日、雲海の下(つまり曇り空)をひたすら谷を下りました。途中、温泉のあるウェルカム・フラット小屋があり。

国道に出ると、運良く小さな車が停まっていて、若いカップルが中に。話をするとフォックス氷河村まで行くというので乗せてもらう。村ではユースに泊まり、山旅の汗を流しました。

たどり着いた小さなフォックス氷河の町からさらに1日を費やして背後にそびえる1,341メートルのフォックス山に往復しました。その山頂から望む青いタスマン海。足元には緑の平原と紺碧の海に向かって広がる温帯樹林が箱庭のよう。

岩と雪の世界から碧いタスマン海へと抜ける転調の妙もこのコースの大きな魅力。天気にも恵まれ、無事にコープランドトラックを踏破出来ました。旅はこの後フィヨルドランドへと続きましたが、それはまたの機会に。

★コープランドトラックの名称は2018年現在では西海岸のフォックス氷河村から温泉のあるウェルカム・フラット小屋までのハイキングコースを示す事となっています。ウェルカム・フラット小屋は人気のようで、宿泊には現在では予約が必要。