東京都美術館で開催中の『ムンク展』に行ってきました。 彼の故郷ノルウェーの首都オスロにはムンク美術館があり、彼の作品を見ようと世界中から客が押し寄せ、拡張計画が進んでいます。

誰もが認める、『モナ・リザ』と並んで世界一有名な絵画、『叫び』。携帯アイコンのキャラにもなっている、恐怖におののく男の表情。とてもユニークです。この顔だけを見ていると、何となく愛すべき漫画やTV番組のキャラにも思え、親近感さえ湧いてきます。

『ムンク展』では初来日するこの目玉作品をあえて展示のラストではなく、順番で真ん中あたりに持って来ています。あくまで作品の展示はムンクの生涯の時間軸に沿っているのです。

『叫び』はムンクの画家としての生涯でほぼ中間、1893年に描かれた作品。同様の絵は同じ題名で世界に計5枚が存在します。2012年のオークションで96億という史上最高値で落札され個人が所有しているエッチング作品もその1枚です。

誰が何を叫んでいるのか?

ところで彼は何を叫んでいるのでしょう?また、不思議な事に後ろに描かれた二人の人物達はそれを全く気にしてすらいないようです。

結論から言うと、『叫び』で叫んでいるのは画中の男ではありません。自分だけに聞こえた叫びを聞いて、男は耳を塞いでいるのが答えなのです。では次に、誰が叫び声の主なのでしょうか?男の顔を歪ませ、耳を塞ぎさせ、ここまで恐怖の表情をさせるのは誰?そもそもこの男は何者?

ムンクによると彼はある日の夕方、友人と歩いてる時、『大自然を貫く果てしない叫び』を聞き、耳を塞いで立ち尽くしたのだと言います。そう、この絵に描かれた男はムンク自身。

世の中の絵画には『自画像』というカテゴリーがあります。当然ですが画家も商売として絵を描いています。注文主は描いて欲しいものを画家に描いてもらいたいのです。ですから、自画像にはもともと注文主がいない。画家が画家自身を描きたいから描く特別なものです。

ケニーには、この『叫び』が、ムンクにとっての自画像に思われました。自画像とは決して外見だけを描くものではなく、画家の内面をも表現したもの。自画像を描く時に画家が見るのは自分自身しかありません。ムンクがこの絵を描いている時、彼には鏡に映った自分がどう見えていたのか… 極限までデフォルメされた恐怖に歪んだ男の顔はムンク自身が自分の中に見た恐怖や不安の表現だと思うのです。

ムンクの生涯が反映された絵

幼少期からムンクの家庭は死と病が絶えず訪れました。幼い頃に母と姉を続けて失い、残った父も精神の病に。ムンク自身が生命の終わり「死」を強烈に感じていたのが判ります。不安が常に絶えない人生を重ねたある日、耳にした大自然の叫び…。狂気に誘われ自ら命を絶った画家は多いです…ゴッホ然り、パスキン然り。対照的に狂気や死の恐怖と葛藤しながらも生きてひたすらに絵を描き続けた画家ムンク。彼の本当の価値はその死への不安をあえて世に問うて自分も共存しようとした『叫び』以降の作品たちにこそある気がしました。

最近、心筋梗塞で死の淵を彷徨った経験のあるケニー自身にも「恐れ」との向き合い方のヒントを、ムンクは絵を通して与えてくれたようです。

ムンクの精神世界の過程を時間で追った今回の『ムンク展』の展示方法は、間違っていませんでした。

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