花の名山 【高尾山】梅雨前に山ガールと「セッコク」を見る

セッコク??

とぅるるる…

家でまったりとNHKで再放送『機動戦士ガンダム・THE ORIGIN』を見ていたときでした。

「ケニーさん、この前は伊吹山に連れて行っていただき、ありがとうございましたあ」

東京に戻った山ガールからお礼の言葉が届いたのでした。

「あ、あのう…」

『ん…? 何?』

「もし都合よければ、今度は高尾山に行きませんか?」

『高尾…山て、あの高尾山?』

「ハイ。あの、高尾山です。うちの近くの…」

(あ、そうか。近くの山だっていってたっけかなあ)

「あの… セッコク見に行きません? ケニーさん、山と花大好きですもんね。いいですよー、今の時期」

『セック…って、いや、(おいおい)あの…、いやいや、セ、セッコクって何? そんな花あったか???』

「セッコク。セッコクですからねっ(念押し)」

初めて聞くなあ。山の花の名前は大概は一度は聞いたことあるつもりなのですけど、こんな変わった名前は正直初めて。

『初めて聞く…セッコク、ぜひ見たい(キミにも)。ぜひもっと知りたい(キミについて)… 行くよっ!』

いやいや、カッコの中の心の声は無視してくださいね。花についてはやっぱり譲れないだけなんですから。

伊吹山での雷撃を忘れるわけにはいかない。ザビ家末代までの沽券(こけん)にかかわりますからね。

高尾山でいきなりの遭遇

というわけで仕事の用事の後、時間をやりくりして半日を何とか捻出しました。

さすがに名古屋からだと用事のついでに寄ろうとしてもこれだけの時間を作るのが精いっぱいでした。

『ハアハア… お待たせっ!』

「大汗かいているじゃあないですか」

通常の3倍のスピードで来た

麓のケーブルカー駅で待ち合わせた時すでに時計は11時をまわっていました。

「あ、さっそくセッコク見つけましたよっ!」

『え?も、もうセッコク? ここ駅の構内だよっ。ど、何処…』

わ、分からないぞっ。

「あれ、ケニーさん山岳ガイド目指すって言ってましたよね。セッコク、見えません? あ、知らなかったんでしょう?」

はっきり言う気に入らんな

気休めかもしれませんが、ケニーさんなら見えますよ。大丈夫

おだてないでください

ホント、どこよ?

「あの樹の上の方、ずーっと上にに生えているの…」

ん…? あ、あれ??

あんな樹の上の方に生えている。

『おお、あれか…セッコク かっ! 見えるぞ、私にも敵が見える!

「敵じゃあありませんよ。ね、ケーブルカー、出ちゃいますよっ。早くっ」

『ち、ちょっと写真を… ここからだと見えないよ。もう少し近寄って…ちょっとゴメン…』

「わ、私を踏み台にしたあ

『あ、ゴ、ゴメンっ!』

手間取っているうちにケーブルカーは出発してしまった。しまった…

(駅員さんに一声かければ改札内に入れてくれて写真を撮らせていただけることは帰りに教えてもらいました)

認めたくないものだな。自分自身の若さゆえの過ちという

「ケニーさん、若くないのに」

(グサ、さ、ささったぞ、今のは)

若者をいじめないでいただきたい』(意地っ張り)

セッコクは岩や大きな樹木に着生するラン科の植物だという事を彼女から教わりました。漢字では「石斛」。うーん、まったくそう読めない…

神社の境内なの、古くから大切にされている森の木などで見かける事があるそうですが、ここ、高尾山のセッコクは高尾登山鉄道の職員さんによって大切に保護されているものです。

「あははは… 電車、行っちゃいましたね」

笑うなよ。兵が見ている

「兵隊なんて、ここにいませんよっ」

まあ、では歩くか。そもそも山歩きに来たんだし。

電車に遅れた時の事は考えてあるよ。歩こうか。戦いとは常に23手先を考えて行うものだ

「(無視)それはさておき、セッコクとは別にこの時期だけのとっておきの花が見られますから、6号路で行きましょうよ」

『何の花?』

「見るまでは内緒です。今日は私が見せて、教えてあげる番ですからねっ」

『では、見せてもらおうか。この時期だけのとっておきの花とやらを

「そんな偉そうに言わないでください…」

とっておきの花。

6号路はのっけから薄暗い林の中です。終始沢沿いを行きます。

しかも、この日はムシムシして湿度が高い。

朝の気象情報では、雷発生の目安となる、御前崎と富士山頂の気温差が25度を超えた事を知らせていました。

(ケーブルカー乗り過ごしたし… 早めに山頂にたどり着かないとヤバいな)

『あ、シャガが綺麗です』

この時期の高尾山には飽きるほどシャガの花が咲いています。漢字では「射干」。これも読めないなあ。

「あ、モフモフ系いたぁ!」

『これ、前に見たっ。ちょっと待って。EVERNOTEのメモから探してみる…あ、ヒトツメカギバだっ』

「ミッフィーみたいで、かわいい〜」

後で感じたのですが、行にとった6号路はメインの1号路とは違って暗いイメージ。沢沿いで、このような立派なシダ類をあちらこちらで見ます。

30分も登ったころ。

『あれ、ここにも…?』

「はい、ここにも咲いてます。セッコク」

こちらはさきほどの駅構内の花とは違い、天然のものです。まるで雪が積もったようです。

ずっと歩いてきた沢沿いの滑りやすい道は、小さな橋を渡ると終わり。

「あ、ウツギが沢の流れに…」

マルバウツギ。かわいいね』

ここからは一緒だった前ノ沢の流れを離れて山腹をジグザクに登っていきます。

…と、突然に

「ほら、これです! ケニーさんに見せたかったこの時期ここだけの花。」

『あ、イナモリソウ?』

「高尾山のイナモリソウは他と違うんですよ、花の形が。細いのと細くないのとあるんですよ。ホシザキイナモリソウって…」

『どっちがどっち??』

「あ、どっちがどっちかわからなくなっちゃった… ケニーさん、これどっち…」

『ガンダムの性能を当てにしすぎる。戦いはもっと有効に行うべきだ』

「あてに…してるのに」

『ああ、ごめんね。ガンダム…じゃなくて、イナモリソウだよね。こっちが普通のイナモリソウだと思う。鈴鹿の山や弓張山地で見た覚えあるから』

『たぶんこっちの花が細いのがホシザキイナモリソウだよね。』

うん、花が違うからすぐに分かるね。あと、イナモリソウと違ってホシザキの方は1株に1輪と決まっていないからね。この株みたいにいくつも花をつけるのもあるんだよね… 。そう、ザクとは違うのだよ、ザクとはぁっ!

「ケニーさん、いいかげんうるさいです!でも意外と簡単に見分けがつきますね。それにしても…うわぁ、かわいいー」

イナモリソウそのものは、僕のホームグラウンドである鈴鹿の山、雲母(きらら)峰にある稲盛谷に多い事から命名された花です。

ホシザキイナモリソウのほうは、ここ高尾山で初めて発見されたイナモリソウの変種。いずれもこの時期(5月下旬から6月上旬)に咲きます。

鈴鹿の山々や弓張山地でもホシザキイナモリソウの方は見たことがありません。

発見された山で見る事が出来たうれしさは格別です。

ヤマノカミナリ…コワイ

楽しい時間なんだけど いよいよ暗くなって空が泣き出しそうになってきました。

でも花好きの彼女は…

「これ、何ですかね~。綺麗な赤い実ですよ~」

ヤマボウシ~ この前の伊吹山のよりでっかいっ!」

 

『ね、空模様が怪しいからちょっと急ごう。多少の雨はよくても雷はヤバイよ』

当たらなければどうということは…ありません!」

(これ、前から思ってたけどゼンっぜん説得力ない言葉だよな…)

「…というわけにはいきませんよね。もうちょっとで山頂ですから、急ぎましょうか」

しかし…ここで、突然の雨が。遠くでは雷の音も。稲光も一瞬、そしてしばらくして「ピカッ」

ドーンっ!!!

冗談ではないっ

あと5分で山頂というところだったのに…遠くに見えた山頂レストハウスにほうほうの体で駆け込みました。

いや、もう少しというところで雨に降られました。数分ではありましたが雨でびしょ濡れに。

私もよくよく運のない男だな

「それは、私もです。ケニーさん(怒)。でも、カミナリは怖かったですぅ…」

こういうときは臆病なくらいがちょうどいいのよね。』

咲きだした夏の花カンゾウも雨に濡れてしょげ気味になっていました。

雨の止むのを待つ事15分。うそのように晴れてきました。

高尾山の山頂です。

この日、八王子では雹(ひょう)が降ったとか。

濡れてしまった上にすっかり予定時間を超過してしまっているので、一丁平への散策を割愛、ガマズミ咲く1号路を下る事にしました。

「ん…? マムシグサっぽい葉だけど、何かな? この模様、インパクトあるね。面白いよな、山の花は」

「花、咲いてないじゃないですかっ。葉っぱだけ見てもね…」

あんなの飾りだよ。偉い人にはそれがわからんのですよ!

これは後で調べてキシダマムシグサの葉らしいと分かりました。マムシグサの種類は日本でも15程もあってなかなか見分けが難しいです。花だけではなく茎や葉、枝の分かれ具合など、植物は奥が深くて面白いのです。ちょっとウェブで検索するだけで、「似た花」の情報はわんさか出てきます。

似た花といえば、薬王院前に咲いていたのはこの花。

「これ、もう分かりますよ~。伊吹山で教えていただいたアヤメですよね。雨の後で雨粒がしたたって綺麗ですね」

『アヤメとショウブ・カキツバタの区別がつくようになったね。いまは…ララアの方がすぐれている…な』

「????」

『なんでもない。』

天狗像の立つ薬王院に到着。

「あれ、ケニーさん、お参りしないんですか?」

『ん…? 伊吹山でお参りして君のカミナリにうたれ、今日はホンモノのカミナリにあったから、やめとくよ(笑)』

「あ…(汗)あ、あれは本当の事じゃないですって。冗談、冗談!」

『いいんだよ。別に… 彼氏いても別に驚きませんよっ! 気にしてない、気にしてない…』

まあ、いいや。せっかく来たのですから、お参りしておきましょう。

「何お願いしたんですか?」

『決まってるでしょ。奴とのざれ事はやめてくれえええって』

「(思いっきり気にしてるやん!)もう一度、言いますけど、アレは冗談です!」

『あわわわわ…分かってますって…そ、それより、こ、ここに咲いてるこれはもしかしてサイハイラン?』

これはうれしい。サイハイランは鈴鹿でもなかなか探せない花。ここ、高尾山では堂々と登山道わきにたくさん咲いている。

栽培出来ない花なので、自生の花を守る事が唯一の保護になる、サイハイランのような花が一番危機に瀕していると思えます。

「すごいですねっ!地元の私でもついこの前知ったばかりなのに…」

ドレン、私を誰だと思っているのだっ

「私の名前、排水溝(ドレーン)じゃ、ありませんっ!(怒)」

あまりにも人の多い山なので、盗掘しようとしても誰も手が出せないのかもしれません。場所を明確にすることで逆に守りやすくするのか、それとも誰かがここに植えたのか?

探しに山に分け入る事も、山に踏み跡をつけることになり、それは悪意ある人も花に近づける手助けになっている可能性もあります。山慣れた人が全て善意の人だと願いたいのですが、現実はどうなのでしょうか。

綺麗な山野草を見るたびに自問自答することも多いのです。

『あ、伊吹山でいやがってたオカタツナミソウね』

単純に見た目が綺麗だ、という判断だけで保護されたり、雑草扱いされたり…

個体数の多い少ないでもまた人に大切にされるかどうかも違う。

『多様性』(ダイバーシティ)の問題は難しいのですが、避けて通るわけにはいきません。自然に分け入るときはそれを肝に念じて接するべきです。

雨に降られたりして、時間切れです。残念ですが、僕は名古屋まで今日帰らないといけない。岐路は行きに使わなかったケーブルカーで下山です。

と、山頂ケーブルカー駅構内にもセッコクが。

春、スミレをはじめとする花を愛でに大賑わいの高尾山。その季節が去り、夏を迎える前の梅雨前のほんの短い期間。

登山者の足が遠のくかと思うとさにあらず。

この珍しい「セッコク」を見にたくさんの人でにぎわい山のレコサイトも相変わらずのにぎわいです。

伊吹山に続き、高尾山と東西の花の名山を続けて楽しませてもらいました。

ガイドの背中

『ガイドありがとうね』

「とんでもないです。何にも分からなくって…」

『いいガイドだったよ。楽しかったよ』

「ほんとですかっ。よかった~」

いい笑顔だ。確かに彼女は何か専門的なことを話してくれたわけじゃないし、案内といっても道に迷うこともない国道のような登山道。

それでも、この満足感はなんだろう。確かにナビゲートしてもらっていた安心感も。先を歩く背中をずっと見ていただけなのに。

「あのー、前から思っていたんですけど」

『ん、なに??』

「ケニーさん、山岳ガイドの資格、とってみたらいいんじゃないですかね?」

『えーっ、そんな自信ないよ』

「大丈夫ですよ。これだけいろいろ知ってるケニーさんなら、楽勝ですってば」

『いや、資格とるより、他の人を案内するのが自信ないよなぁ』

下山して、名物の自然薯蕎麦をおいしそうに食べながら彼女はニコニコと笑い続ける。

「いいんですよっ。ガイドって、もちろん相手の安全も考えないといけないですし、アルパインや岩場の案内はもちろん本当のアルピニストのガイドの世界ですけど…。 でも、今は山がどんどん身近になってきて、私みたいな、にわか「山ガール」っていっぱいいるんですよ。綺麗な自然の中でいい汗かいて、隣に素敵なガイドさんがいて、ちょっといろいろ話をしてくれるだけで…」

『そ、そんなんでいいのかなあ』

「それだけで…ぜーんぜん違いますよ! ケニーさんみたいに、自分も花を見つけて楽しんでいて、でもさらっと色々お話ししてくれるから…押し付ける事もなくて、何かそういうの… じわーっと安心です。連れて行くって肩に力いえずに、隣で見てくれてる感じも十分、ガイドですよ」

そうか… そうなんだ。ガイドといったらなんだか難しい顔で先頭を歩いていくイメージがありました。ガイドの人は先頭を歩き、背中を見る事が多いのだけれども、その背中に見ているのは「安心」なんだという事に気が付かせてくれました。

「もしケニーさんが本当にガイドになったら私、お手伝いしますよ。あ、日当は少しでいいですからね。チャンスは最大限に生かす。それが私の主義ですっ!

う”….ちゃっかりしてる。とにもかくにも自分が山を案内して喜んでくれる人がいるのは嬉しいじゃ、ないですか。

何にせよ、どちらもハッピーになるってことだから。

大丈夫、ケニーさんなら出来るわ

「(汗汗)おだてないでください

『でも、ガンダム語はだめですよ。山ガールはどん引きしますからね』

男心をツンツンとつつかれて、なんだか彼女にうまくのせられたような気もするのだけれど。

悔しいけど、僕は男なんだな

山のガイドかぁ…悪くないかもしれない。

 

(この話は一部(かなり)フィクションです。実際の人物や団体などとは関係ありません…たぶん)

写真は全て実際の登山中にケニーが撮影したものです。

★高尾山登山オススメの本はコレです。