松本潤主演、深田恭子・江口洋介が共演、そして番組の語りはなんと中島みゆき。NHKの特別番組「永遠のニシパ」が先週、北海道で先行放送されました。(全国放送では総合チャンネルで7/15午後7時30分より)
松本潤が扮するのは幕末に蝦夷(えぞ)を探検し、北海道と命名した実在の人物である松浦武四郎。
北海道150年を記念した特別ドラマです。
アイヌの人々と、江戸幕府側の「和人」との間で葛藤する武四郎を演じた松潤、素晴らしかった。全国放送でもう一度見たいものです。
2018年、北海道は武四郎がその地をこう命名してから150年を迎えたのでした。
キラキラネームの元祖はアイヌじゃあないか!
世界で一番高い山は?
誰でも答えられる質問だと思います。
「エベレストに決まっているでしょ」
確かに。間違ってはいません。ですが、答えが一つかといえば、違います。
中国 チベット高原から見たこの山は「チョモランマ」と呼ばれてきました。
反対側のネパールからの呼び名は「サガルマータ」。
エベレスト、チョモランマ、そしてサガルマータ。
どれも『正解』といえば正解です。
では、世界で2番目に高い山…K2は?
中国名は「チョゴリ」。K2はよく知られるようにイギリスの測量局がカラコラムの山々を測量した際に便宜上「カラコルムの山で測量した二番目の山」としたものが定着してしまったのでしたね。ちなみにK3はブロード・ピーク、K5がガッシャーブルムⅠ峰、いずれも8,000m越えのジャイアンツたちです。
エベレストと違ってさすがに個人的にはK2の名前はいただけません。この山は正しく「チョゴリ」と呼びたいところです。
いや、エベレストも元はインド測量局の局長エベレスト氏にちなんで名前がつけられたものです。
かわって日本の最高峰である富士山。
(河口湖キャンプ場から)
その名前の由来説のひとつに、アイヌがこの山を「フンチヌプリ」と呼んだからだとの言い伝えがあります。その意味は”火を噴く山”。
”ヌプリ”は山を意味するアイヌ語。
子供の頃、小学館の図鑑か何かで読んだことがありました。
「北海道に住んでいたアイヌの人がなぜ関東の富士山の名付け親に?」
当時、アイヌの人々が広く東北南部・北関東圏まで住んでいて、後の朝廷から圧迫をうけて住みかを失っていった事など、小学校な入りたての子供は知る由もありませんでした。
年月を経て、大学生活を送っていたころ。山にのめりこんだ日々がはじまって…
ついに北海道は日高の山を目指したことがありました。
日本で最も険しく、ワイルドな登山が出来るのは間違いなく日高です。
南北150 Km。北アルプス(飛騨山脈)が南北に約70 Kmなので、日高の長大さは並外れています。この山域で一般登山道があるのはわずか数座のみ。
長い林道歩きと長大な尾根の急登に耐えて山頂を目指さなければなりませんが、尾根の上からは日本でも有数の氷河圏谷(カール)の山並みが延々と続く、世界に誇る美しい山々です。
この日高稜線の山々の名前がとにかく素敵。
ポロシリ岳・ペケレベツ岳・イドンナップ岳・ピパイロ岳・ペンケヌーシ山・エサオマントッタベツ岳・コイカクシュサツナイ岳・ナメワッカ岳・カムイエクウチカウシ山・ペテガリ岳・ヤオロマップ岳・ピリガイ山・ピセナイ山・オムシャヌプリ・ソエマツ岳・アポイ岳…
そう、アイヌの人が名付けた名前がキラ星のように眩しくあちらこちらに残っているのです。
(峻嶮な日高の稜線とカール、遥かまで続く山並み:エサオマントッタベツ岳)
そうなんです。アイヌ語の山の地名にはなぜか パ・ピ・プ・ペ・ポ が多いのですよ。
反対に濁点がつく名前がほとんどありません。
「今年はね、日高に登って来たよ。エサオマントッタベツ岳からカムイエクウチカウシ山を越えて、コイカクシュサツナイ岳から下山した10日の長丁場だったんだ」
帰ってきてこう自慢しても、ほとんどの山仲間も『???』という反応でした。
日高以外の北海道の山々でも…
大雪山系には、有名なトムラウシ山・ニペソツ山・ウペペサンケ山など。
知床連山ではウィーヌプリ・ポロモイ岳。知床そのものも、もとはアイヌ語の「シリ・エトク」(地の涯(はて))が語源。
スキーで有名なニセコはそこにそびえる山、ニセコアンヌプリがそのままスキー場の名前となって知名度があがりました。
山以外でもオオタンペ湖・クッタラ湖・オコタンペ湖…
いやいや、札幌だってサト・ポロ(乾いて大きな川)、富良野はフラ・ヌ・イ(臭いを持った場所)と、漢字の地名もかなりのものはアイヌ語が元になっています。
どれも、なんて美しいひびきなんだろう。
「知床」=演歌だったイメージ が、 「シル・エトク」=さいはてのロマンあふれる土地へ。
「札幌」は大都会、ビール&ラーメンのイメージが「サト・ポロ」と聞くとなんだか全く別の美しい川の流れたゆたう土地へ変身してしまう。
アイヌ語の地名はどれを聞いても宝石のようにきらきらと輝く北の大地の自然を思い起こさせるものばかりです。
名前はアイデンティティそのもの
ドラマの中で北海道を命名した武四郎は、深田恭子演じる女性・リセをはじめとするアイヌの人々と、自分が属する「幕府」の間で悩みます。
幕府はアイヌ語でつけられた古来からの土地の名前すら都合よく変えてしまおうとし、アイヌの人々は抵抗します。
アイヌの人たちが守ろうとしたのは、何よりもアイデンティティ。それを武四郎はよく理解していました。
初めて出会った時、聞いた名前。自分の子供につける名前を一生懸命に考えない人はいないでしょう。生まれてきた新しい生命を思ってつける名前。
同じように初めて目にし、そばで育った土地の人が名付けた名前が一番美しく、本質をついているのはあたりまえです。
アイデンティティの意味は「自分を自分として確信する」という本質的自己規定。
他人と自分を区別するだけではない
どうしても好きになれない、「イヤーなヤツ」でも、名前を思い浮かべてみる。
その人の名前も親が気持ちを込めてつけた名前のはず。そんな想像が浮かべばしめたもの。
相手を前に頭に来そうな、そしてムカッとしそうなとき、その人の名前を繰り返し頭で唱えてみると、あら不思議、不思議… いつの間にか「イヤーなヤツ」との距離も縮まっていき、「あ、同じ人間じゃない」と思ってなんだか安心するのです。
おお、なんだか新しい ”アンガーマネジメント” の極意のひとつかも?
「名前」は単に自分と他人を区別するだけでなく、思いのこもった特別なもの。私たちの想像力次第で、相手との架け橋になるのです。
「おはよう、○○○さん!」
明日から朝の挨拶をするときには名前を必ずちけて声をかけたいと思います。
番組のタイトルにある「ニシパ」の意味は「旦那」。ネタバレになるので書きませんが「北海道」と名がついた背景も相当奥が深いです。
★アイヌといえば、この漫画も面白い。『ゴールデンカムイ』。日露戦争直後の北海道を舞台にした新感覚のコミック。アイヌ語も美しく、なによりぐいぐいはまってしまいます。TVアニメ化もされ、北海道は盛り上がっています。