マウナ・ロアへ個人で登ろうとするのは、なかなかにチャレンジングだと書きました。
その理由はいくつかあります。
①登山口までの道路(オブザーバトリーロード)が難路。舗装路ではあるが、溶岩の間を縫うように山腹に付けられ、極めてアップダウンが激しい上に幅も狭い。
レンタカーの保険はこの道をカバーしていません。
②最高点まで、往復10時間ほどのルートはケルンだけが頼り。
案内標識も数か所だけ。
同じような溶岩の景色が続き、迷いやすい。
このため、視界不良の天候時の行動は極めて困難で危険。
③行程中は樹林帯が全くなく、日を遮る場所もない。水場も全くない。
④富士山を超える標高のため、高山病の症状も出てくる
以上のように、一般的な海外のトレッキングとは随分勝手が違います。
日本からの登山ツアーなどに参加すれば、もちろんガイドもついて登頂も容易なのでしょう。ですが、やはりピークハントより、自分オリジナルの山旅を自由に楽しみたい気持ちが上。
これ以上ない絶好の天気に恵まれ、視界は良好。
ここ数日ハワイ島に滞在して、一度サドルロードを車で通り、オブザーバトリーロード入口も確認、何よりマウナ・ロアの姿をながめて、山の概要を下見しています。
カイルアコナのホテルを車で出発したのは朝3時。
サドルロードので車中で仮眠し時間調整。
暗闇の中、車のフロントライトだけを頼りに溶岩の中に続くオブザーバトリーロードを走ること約1時間。
陽が登ってくると、周りの光景が見えてきました。
路面は恐ろしいほど上下にうねり、道幅は車1台分。
対向車が来て路肩に避けても、周りはゴツゴツした溶岩。パンクしないよう細心の注意が必要です。
巨大なシルエットのマウナ・ケアが背後に。
幸いも車とすれ違う事は無く、目的のマウナ・ロア気象観測所へと到着出来ました。
すでに標高は3,400 m 。
気象観測所ゲートを左に見てすぐで小さな駐車場があり、登山者はここに車を止めます。
駐車可能な台数は10台ぐらいと非常に少ない。
この地図で、”Service Road”とあるのがジープ道。火口直下にある気象箱のデータの定期的回収等のためで、登山には向かないダート。
トレイルは赤い破線で伸びている ”Mauna Loa Observatory Trail” を行きます。
トレイルのスタート地点から7-800m ほどはジープ道を歩きます。
ハワイというより、火星の風景というほうがピッタリ。
単独行でしたので、この風景の中、ポツンと一人。
駐車場には1台だけ先行の車が止まっていましたが、見渡す限りは人影は全くありません。
ものすごい寂寥感でしたが、これからの長い行程に、気もひきしまりました。
しばらくして道標があり、ジープ道と分かれます。
足元の白い矢印には溶岩がひたすら続いています。いよいよ踏み跡はなくなって、目印のケルンを追いながらの本格的登山になるのです。
ここから標高にして約800 m 、約6時間。
ケルンだけを頼りに、硬い溶岩の上をひたすら登って山頂の巨大カルデラを目指す。
硬い溶岩は、どんなに人が歩いても踏み跡がつきません。
写真でよく分かるように溶岩の表面はツルっつるです。
これは、どろどろした粘性の高い溶岩流が流れて固まったものですが、「パホエホエ」溶岩と呼びます。
ハワイにはもうひとつ、表面がとがっているガサガサした溶岩もあり、そちらは「アア」溶岩と呼びます。
どちらもハワイ語。
この2つのハワイの溶岩の名前は覚えておくと、何かと便利。
(日本でもハワイ島キラウェア山の噴火がニュースになった年 (2018年) にテレビ番組の中でもよく紹介されていました)
マウナ・ロアの登山ではこの2つの溶岩の上を何度も繰り返し登っていきます。
登りやすいのは圧倒的にパホエホエ溶岩。トレランシューズで登った私には、ゴツゴツしたアア溶岩帯はとてもつらかった。
しばらくして、右手、見えてきたのは、雲海に浮かぶフアラライ山(標高 2,521m )。
カイルア・コナの街から見上げている山で、いつも山頂は雲の中でした。
さらに高いマウナ・ロアからは、フアラライ山は、雲の上にその秀麗な山頂部を惜しげもなく見せてくれています。
そして、やはり展望の主役はマウナ・ケア。
ふと足元を見ると日本の三角点や水準点に相当する標識がありました。
そして、もうひとつ。
登るにつれて背後に見えてきた別の大きな山があります。マウナ・ケアやフアラライとは違う山容。
眼下には海岸線と海。見えている山はさらにその先。
そう、マウイ島のハレアカラ火山です。
こちらも標高3,055 m のビッグスケールの火山。
日本の御嶽山(標高 3,067 m)がいきなり海に立っている感じと思えばそのスケールが分かるでしょうか。
時にはこのように大きな岩クズの塊のように盛り上がったパホエホエ溶岩も通ります。
しばらく前にマット・デイモンが主演した『オデッセイ』というSF映画がありました。
火星にたった1人取り残されてしまった宇宙飛行士の物語です。
自分以外誰もいない、岩の世界。
生き物の気配も、水や植物すらない無機質ワールド。
恐ろしいほどの静寂。
景色が雄大なだけに、静けさが強調され、自分はマット・デイモンが置かれた壮絶な状況をほんのちょっとだけですが、味わったような気がします。
(いつになったら、この景色が変わるんだ?)
照り続ける太陽の下、高度で息も弾んできました。
…と、遠くに巨大な火口壁が見えてきたのです!