スシロー休業で考えた「働き方」と甘えの文化 – ドイツ人との比較

全店、完全に休業!

思い切ったものです。平日とはいえ全ての店を休みにしてしまうのですから。

回転寿司の人気店、「スシロー」の事です。

先ごろニュースになりましたが、2019年2月5日から2日間、ショッピングモール店舗10店ほどを除くほぼ全店で、一斉に休業することを発表しました。

安くて美味い、回転寿司。スシローはその業界トップ。週末はどの店も席を待つ人でいっぱいです。

年中無休の営業が基本のスシローが、2日間も全国規模でほとんどの店を閉めてしまう。

2日で約10億円の売上機会損失、驚くべき決断です。

人手が追いつかず、厨房もてんてこ舞いで休めない…

従業員の声を受け、社員の士気の維持を優先させた会社トップの英断でした。

日本人は勤勉、けれど…

昔から日本人は勤勉な国民性で世界に知られています。農耕民族であるが故に、

「雨が降っても、おてんとうさまが照っていても田畑が気になる」。

休みが取りにくいのも、周りの目を気にしたり、休んでいる間に代わりに仕事をしてくれる同僚たちの苦労を思い、「遠慮」してしまう人が多いからではないでしょうか。

結果、この国は経済的には豊かにはなりました。

でも、豊かさを実感するにはほど遠い。

よく知られていますが、GDP世界3位のこの国の生産性は驚くほど低い。

全産業対象では、OECD加盟国36ヶ国中、時間あたりで20位、労働者人あたりで21位。G7の中でも最下位です。

では、日本が得意としている「モノ作り」だけに絞った製造業だけの順位は?

何とこれも、OECD加盟国中15位という成績です。

▶︎ 公益財団法人 日本生産性本部 『労働生産性の国際比較2018

良い製品を作って世に提供している日本の製造業ですが、その価値を生み出すためには主要欧米諸国の2割から3割増しで働かなければ同じ価値を生み出せないのがこの国の実情です。

これだけ働いてもこの効率の悪さ。仕事している時間が長ければいい、というわけではなさそうです。

ドイツには「5時から男」はいない

縁あってドイツ本社の会社に勤めています。

得意先はもちろん日本の会社です。お客様のニーズに合わせ、日本市場にあったサービスを提供するために日本に支社を作りました。

ほとんどの業務が日本の中で完結出来ますが、コアとなる新製品の開発や研究は本社主体となっています。

当然、日本と本社とのやりとりが日々発生します。

ドイツのスタッフは日本人に劣らず真面目。勤勉さにかけては日本人には負けていません。

大きく違うのは仕事そのものに対する社会の意識。

●ヨソがやっているからと言って同じモノを慌てて作るような事は好まない。自分のオリジナリティを大切にして、儲かるから、というだけですぐに手を出す事はない。

●どんな大切なお客様であっても、極端な要求に対しては「無理なものは無理」という姿勢を崩さない。

もちろん最善を尽くすが、それはあくまでも常識的範囲内での事。

「24時間働いてでも何とかしろ!」という得意先の無理難題に対応する事は絶対にない。

●個人レベルでの「労働」に対する価値観を大切にしている。

「会社」の指示が全てに優先する事はないし、雇用者もそれを求めてはいない。

彼らと仕事をしていて感じるのは、彼らが仕事を進めていくにあたって大事にしている「価値観」です。

それは、彼らが返してくる言葉ですぐに分かります。

Make a quote in 2 days ? This is not “reasonable” !

(2日で見積もれって? 無茶だよ)

We do not accept such price cut … we only offer good and “reasonable” one.

(そんな値引きは受けられない。ベストの見積を出すだけだ)

日本語に訳すとなかなかニュアンスが伝えずらい言葉 “reasonable ” を彼らはよく使います(ホントによく使う)。

辞書を引くと、この言葉の意味はこう書いてあります。

reasonable = 「理にかなった、道理の通った」

ご存知、この言葉の名詞形の “reason” は、「理由」という意味。

つまり、根拠のない、無理だけの納期や値段は彼らにとっては 「理由がない」、受け入れがたいものだととらえられるのです。

日本人の感覚では、

「そこを何とかしてほしいんだ!」

「道理のない話なのはわかっているけど、曲げてお願いしたいんだよ」

となります。

そこに存在しているのは、「甘え」。

頼めばなんとかしてくれる、という甘え。広く世界を相手に仕事をしていると、日本はこの「甘えの文化」に染まっていると感じます。

そして、この甘えに基づいた依頼を断ると、途端に相手は怒り出す。

「何でこちらの頼みを聞いてくれないんだっ!」

「こんなに頼んでいるのに、どうして出来ないんだ?」

無理なことを普通に断って、それでも怒られる日本の文化は彼らには理解し難い。

彼らも残業はするし、ここぞという時のパワーはすごい。

でも、それには必ず「理由」を見つけた上で納得してから動く。

自ら構築したロジックで行動する事は素晴らしい、とさえ思う。

自分の理由が会社や顧客の理由と相反する時、彼らは明確に線を引いて仕事を遂行するのです。

ドイツには日本にいるような「5時から男」はほとんどいません。

なぜなら、得意先の人間も同じドイツ人。その時間には相手もオフィスにいなく、答えを求められる事はないからです。

「甘え」文化よ、サラバ。

スシローの件は日本の会社の働き方を変えるきっかけになるかもしれません。

少子化が進み、労働人口は減っていく。

それに対応した社会のIT化は、時間の余裕を与えてくれはせず、むしろ要求への迅速な対応を強要してくる「理由」になってしまっています。

「メールがあるだろ。すぐ見積り送ってくれ!」

「会議でいなくても、配送状況は管理されていて分かるだろ? すぐ配送先を変更して欲しいんだ」

IT化が進んだおかげで、他人への「甘え」はどんどん要求を増し、ハードルが高くなっていきます。

他人への無理な頼みごとの底にあるのは「甘え」。そして、他人に甘えざるを得なくなる状況を生み出した自分を日本人はなかなか省みない。

依頼の理由は、自分の見落とし、怠慢、確認不足などがほとんど。だから他人に頼むことになります … しかも後になって、バタバタと。

常に事前確認、物事を進める前に頭を働かし、一度決めた事は愚直に実行していくドイツ人。

融通性にはかけるきらいもありますが、どちらが生産性に長けているのかは結果が示しています。

多忙を極める現場従業員に「甘え」ている会社や組織はスシローだけではないはず。

休業を増やすことで逆に顧客が意識して空いた曜日や時間を選んでスシローに行くよう賢くなっていくのではないでしょうか。

僕は今回の一件で、スシローの顧客は逆に増えると考えています。

スシローの経営判断を受け入れる社会があって、初めて生産性も向上していく気がします。

その理由は、この報道が大きく注目され、ほとんどが好意的な意見だからです。

ちなみにドイツでも回転寿司は大変な人気。高い生産性を誇りながら、5時には仕事を切り上げて、平日にも寿司を食べにいくドイツ人。店側も余裕を持ってお客様に対応出来、作る側、食べる側の双方が満足している…

スシローがその英断の向こうに見すえている景色なのかもしれません。

もう、日本でも「甘え」の文化を捨て去る時期が来たのではないでしょうか。