天国に一番近いビーチへはパスポートは不要だった  – 西表島 イダの浜

原始の島の『涯て(はて)』にあるエメラルド色に輝くビーチへ

西表島!

名前を聞くだけでワクワクしてしまう人は間違いなくこの島の本当の価値と魅力を知っていることでしょう。

海からいきなりそそり立つ緑の山は急峻で、標高は300-400m程度と決して高くはないのですが、深く切り込んだ谷と複雑な地形で迷いやすい上に、ほとんどが亜熱帯植物のジャングル。加えてハブ、ヒル、ハチなどの危険動物と熱射病の危険が伴い、遭難さわぎも絶えません。単独で山に分け入るのは容易ではありません。

そんな西表の山へ入るには相当の覚悟と準備が必要、ですが冒険心をそそられる日本でも数少ない本当の原始のフィールドが残されているのは間違いなく、世界自然遺産に登録が決定したのも納得できる大自然の宝庫です。

白浜から船でしか行けない船浮へ ー 奥西表への道のり

海岸まで亜熱帯のジャングルに覆われた山が迫る西表島。その最も奥まった場所に船でしか行けない極上のビーチがあると聞き、いてもたってもいられなくなった。そのビーチの名前は『イダの浜』。観光地化された沖縄の他の島々のビーチとは全くことなり、自然がそのまま残されているという。

西表島の年間入島者数は約30万人ほど。そのうち8割の人が石垣島から東部の大原港へ入るので、西部の上原港へ入る人は少ない。初めて島に上陸した時も上原港でしたが、港に到着して、そのあっけらかんとした「何もなさ」に驚いた記憶があります。その上原から車でさらに30分、島内を走る道路の西の端、白浜はまさにどんづまりです。何せ、道路は「えっ?」、という感じで学校の門の前でいきなり終わってしまう。そして目の前には海とマングローブ! 

(これが学校の門前からの景色とは思えない…白浜のマングローブ。2020.7.22 )

ここが,『奥西表』の玄関となる白浜です。

奥西表』…なんて魅力的な言葉なのでしょうね。島を一周する道路がない西表の南西部を表すときに使われる名称ですが、僕には何とも旅情をそそる魔法の言葉。

遠い南の海の離島のさらに奥地に分け入るワクワク、ドキドキ感は地図を見ればますますアップする。

(国土地理院地形図に基づきカシミール3Dで作成)

今いるここが、車で行ける道の終点、白浜港。ここから目指す舟浮集落までは船で約10分。

船浮は人口50人ほど。車などというものが走っていないので、時が止まったように静か。時々、船のエンジン音がするだけで集落と言っても1本通りがあるだけで一目で端から端まで見渡せる距離。

集落内はいたって静かでハイビスカスの花が咲いている。集落の端からイダの浜へは山道を10分ほど歩きます(そう、足で歩くしかない。荷物を持って!)。

なお、舟浮には現在、商店やスーパーなどはありません。白浜にも唯一『屋良商店』という小さなお店があるだけなので飲料水などはなるべく舟浮に渡る前に準備を。

待望の浜は突然に現れます。

この青さと太陽の光をうけた水面の煌(きら)めき… 沖縄でも、特に慶良間や八重山では独特で「慶良間ブルー」、「八重山ブルー」と呼ばれているだけはある美しさ。

何をおいても海に飛び込みたくなる、八重山ブルーの海。

シュノーケル道具一式は事前にレンタルして持っていきました。舟浮でも調達可能ですが、島に何日も滞在するのであれば宿近くで探して数日間借りっぱなしが現地で手間かからない。

まずは木陰を見つけてお昼ごはん。そう、周りには食堂も売店もありません。

それどころか、トイレもシャワーも脱衣場もありません。あるのは海と浜辺だけ。100%の自然だけです。1日過ごすのであれば荷物を持って舟浮から歩くか、またはカヤックなどで海から上陸するしかないのです。

エメラルドの海をひとりじめ。真夏のまっ昼間がオススメの理由

ビーチの西の端は砂浜ではなく大きな岩がごろごろとしています。手ごろな岩の上に登って見下ろしたのが上の写真。

海の青さがハンパなく、砂浜の白さもまぶしいばかり。真夏のお昼時、真上からふりそそぐ太陽の光は垂直に海の中へ一番深く差し、海の色が一年で最も綺麗に見える。もちろん暑い季節、暑い時間です。でも、だからこそ一番素敵な景色に出会える。

遠くオーストラリアやハワイなどの海も訪れましたが、やはり沖縄の海は素晴らしい。僕の中では海外も含めて今のところ一番綺麗だと思った海は同じ沖縄の慶良間諸島とこの奥西表の海。

そう、天国に一番近い島のビーチへ行くにはパスポートは要らなかった

パスポートは持っていく必要はないかわりに、真夏の炎天下、海で過ごす一式すべての荷物を歩いて自分で持っていく必要があります。

(ヤドカリはどこでも観察できる)

潜れば間違いなく出会える? 奥西表のウミガメ

この写真はイダの浜の海に出てわずか数10秒でタイマイに出会ったときのもの。

「カメのいる場所が事前に分かっていたの?」と聞かれましたが、まさかまさか…。 でもカメに出会う確率はかなり高く、90%以上とうたっているツアーもあるので、浜で1日過ごす時間があればまず会えるのではないでしょうか。

出会ったカメは甲羅の端がギザギザしていることからタイマイだと分かります。甲羅が綺麗です。別名、ベッコウガメ。装飾品の鼈甲(べっこう)はこのカメの甲羅なのですね。今はもちろん捕獲禁止。 

浅瀬のアマモを食すタイマイ。食事の邪魔をしないように距離をとって観察しましょうね。

タイマイくんと分かれ少し沖合に泳ぐだけで水の中はサンゴと色とりどりの魚たちでにぎやかになります。

クラカオスズメダイ。

浅瀬でよく見かけるのはオグロトラギス。沖縄ではムチューと呼んでいる魚。

カヤックを漕いでたどりつけば、さらに感激のビーチです。