高妻山でアルプス屏風を見る

本当に屏風のように連なるアルプスを見るのに1番良い山は?

北・中央・南アルプスの山々。それぞれの山脈の名峰を端から端まで全て一望出来る場所はどこでしょうか。

私の主観ですが、各アルプスの “大屏風” を眺めることの出来るNo.1は次のようになります。

●南アルプスの屏風を眺める…笊ヶ岳(ざるがたけ):南アルプス白根南嶺にある双耳峰。山頂からは主稜線の山々を一望出来る。アプローチは大変で稜線までも多大なアルバイトを要求される。

●中央アルプスの屏風を眺める…陣馬形山(じんばがたやま):中央アルプス全山が伊那谷を隔ててそびえたつ様は圧巻。うれしい事に山頂近くまで車道があるうえ、キャンプまで可能。

★こちらは以前書いた記事も読んでみてください

⇒ 『信州・陣馬形山で空想した『戦国時代にインターネットがあったなら』

そして、

北アルプスの屏風を眺める…高妻山(たかずまやま:2,353m)。

この名前を聞いて、すぐにその位置がわかる人は、地元の人もしくは登山を趣味としている人ぐらいではないでしょうか。

深田久弥の日本百名山にも選ばれたこの山は、蕎麦で有名な信州・戸隠にある戸隠連山の最高峰です。

『あ、戸隠なら知ってる。神社が有名だもんね』

古事記にもある「天の岩戸」伝説で知られる戸隠神社やスキー場で知られた戸隠山に比べて高妻山の知名度が劣るのは、やはり奥まった場所に位置して麓からはなかなか見えないからではないでしょうか。

この地に伝わる『天の岩戸』伝説の天照大御神(アマテラスオオミカミ)のように、険しい戸隠前山の後ろにひっそりと隠れているため、アプローチが長く、日帰りの往復コースは唯一の一般道で健脚者むけです。

前泊必要なロングコースを行く

上信越の山々は北・南・中央アルプスや八ヶ岳に比べて標高も低い、いわゆる「中級山岳」。

関東圏からも、中部圏からも、同じ信州でも日本海側寄りで奥まって遠い印象があるからか、特に長野市以北の戸隠連山・頚城山塊にはなかなか足が向きません。

これらの山々は、平成27年 (2015年) に上信越高原国立公園から分離して新しく設立された日本で32番目の国立公園『妙高戸隠連山国立公園』に属していて、妙高山・火打山・雨飾山、そしてこの高妻山の4つの日本百名山があります。

高妻山はその中でも一番手ごわい山。コースタイムは往復で9時間を超え、沢の難所や頂上直下の急登など難度も比較的高い上に、コース上には緊急時しか使用できない避難小屋が1つだけで、山中泊で計画出来ないのがその理由です。

今回は前夜に車を走らせて、戸隠キャンプ場と道を隔てた登山者用駐車場で仮眠をして長時間行動に備えました。

3連休初日の朝ですが、まだ駐車場は余裕がありました。

キャンプ場の中に入り、奥の戸隠牧場へと進んでいきます。正面には険しい戸隠の稜線。高妻山はここから見る事は出来ませんが、右奥になります。

ここからコースは戸隠牧場の中を歩いていきます。

ロングコースなので、日が昇る前に早立ちし、ヘッデン行動する人がよく書いていますが、暗闇では道標が見ずらくて、登山道に入るところを見落として通り過ぎてしまう事もあるので注意。

日が出ていれば、早朝から馬が草を食むのんびりとした風景に癒されます。

稜線までは終始、大洞沢沿いを道を歩くのですが、いやらしい箇所がいくつかあります。滑滝は先行パーティで渋滞中…

大洞沢沿いの登路は滑りやすい岩歩き、鎖場のトラバース、急登と変化があって面白いのですが、疲労が溜まり時間的にも午後になる下山時に使うのはお奨めしません。

下りは最近整備された弥勒尾根を使って牧場まで戻るのが、最近の傾向です。

幕岩とよばれる巨岩が道をふさぎますが、鎖場でトラバースします。
ヨメナの花が咲いていて、癒される…

幕岩から15分ほどでようやく尾根に出ると一不動避難小屋。

以前は宿泊出来たのですが、環境悪化が理由で今は緊急時のみの使用となっています。うーん、残念…

おかげで西岳から戸隠山を経て尾根続きの高妻山とさらにその奥にある乙妻山の、『戸隠主稜線コンプリート縦走』が極めて難しくなってしまいました。ヘッデン行動を加味してもなお、1日で踏破するのは容易ではありません。

人で混雑する小屋を避けて足早に先を急ぐと、樹林が切れていきなりそそり立つ高妻山が正面に現れます。

左手にも視界が開けると、雲海の上に連なる北アルプスが。

尾根の上もなかなか樹林が切れないのですが、そこは我慢。五地蔵山へ向かって一歩づつ距離を稼いでいきます。

そして…

おお、見えた!

八ヶ岳のシルエットの左に見えるのは、間違いなく日本最高峰・富士山!

この戸隠からは遥か170Km も先です。
振り返ると、峨々とした戸隠山の尾根が南端の西岳まで続いています。

西岳から戸隠山、そして高妻山・乙妻山までを1日で歩き通すのは相当に大変そうだ。

五地蔵岳を越えていきます。下山に使う弥勒尾根は、この山から戸隠牧場へと下ります。


五地蔵山山頂を過ぎると右手に頚城(くびき)三山が見えてきます。

ここからは小さなアップダウンがしばらく続き、じっとがまん。

八丁ダルミをへて九勢至からはいよいよ高妻山本峰の急登。

ハシゴや鎖もあらわれ、岩を手でつかみ体を持ち上げること30分ほどで、山頂稜線部に出ます。

一気に風が吹き抜けるようになり、安山岩のゴロゴロとした岩の上を100mほど歩くと、いよいよ待望の高妻山山頂です。

待ちに待った山頂からの眺めは

標高 2,353m の山頂からの展望は360度。やはり北アルプスの大屏風に目が行きます。

特に白馬三山やその北の稜線の山々が手に取るようです。

高妻山が北アルプスを端から端まで見渡す絶好の山なのは、その絶妙の位置にあります。

志賀高原や浅間山からは少し遠い。雨飾山や火打岳からは、距離は同じ程度ですが、北に寄りすぎているために北アルプス南部の山々が重なって一部見えなくなってしまうのです。

高妻山からは北アルプスの各山が重ならずに程よく、しかも屏風のように見事に見えるのです。(もちろん、薬師岳や水晶岳など西側の山々までは無理ですが)白馬北方の栂海新道の山から後立山、常念山脈、槍・穂高を経て南端の乗鞍岳までが一直線。

高妻山からの北アルプスを山座同定してみました。

その南へ後立山連峰が連なります。

そして、槍・穂高。

北アルプスから視線を動かして、北の方角を見てみます。

峰続きの乙妻山(2,044m)。

その奥には谷川岳と同じ標高 1,963m の雨飾山が布団菱(ふとんびし)のガレを見せています。

雨飾山があれだけ低く見える程、高妻山は高い。頸城山塊や高妻山は、八ヶ岳や奥秩父に次ぐ標高があります。上越や北関東、東北にはこの高さの山は日光白根山と尾瀬以外にありません。侮るべからず。

帰りは五地蔵山から弥勒尾根を使い下山。正面の黒姫山や眼下の戸隠牧場の眺めも楽しい。


下り口は急で、長い尾根ですが往路のような危険個所はないので疲れた身体にはありがたい。
牛たちが牛舎に戻る時間に何とか戸隠牧場に戻って来れました。

★高妻山往復

【地図】

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【コースタイム】

戸隠牧場ー(1時間40分)ー一不動ー(1時間)ー五地蔵山ー(1時間)ー九勢至ー(50分)ー高妻山山頂  所要時間4時間30分

(さらに奥の乙妻山へは高妻山山頂から往復約2時間)

【交通】信越自動車道長野ICから戸隠キャンプ場へ戸隠バードラインで58km 約50分。キャンプ場と道を隔ててある登山者用駐車場(50台)に車を停めて往復。