関西・東海近郊で霧氷で大人気の山。
綿向山は鈴鹿山脈の西端。南北に連なる鈴鹿山脈では珍しく東西に延びる支稜にある標高1,110メートルのピーク。麓でも古くから信仰されてきた山で、545年には山頂に、馬見岡綿向神社の奥社である大嵩(おおだけ)神社が造営されたほど。
眼下に近江盆地、遠くには鈴鹿山脈の主稜線を望む展望の良さは折り紙付き。冬、快晴の青空に恵まれたならばブナの木に輝く霧氷と遠くに輝く北アルプスや伊吹山に歓声をあげるだろう。
1月中旬、八日市方面から入山。御幸橋駐車場に車を停め、表参道を登り、帰りは竜王山をめぐって下山する周回コースを歩いた。
正面に聳える綿向山へ。
ジグザグに山道を登っていくこと1時間30分。途中にはヒミズ谷出合小屋、あざみ小屋、五合目小屋と3軒も避難小屋があるのは心強い。鈴鹿は三重県側からの登山道は急であるからだろうか、人気の御在所や藤原岳でも山頂へのコース途中にこれだけの数の避難小屋がある山はない。それだけ綿向山は西の近江側からポピュラーで人気があるということだろう。
近年では、綿向山は無雪期よりも積雪期のほうが倍以上登山者が多いという。
7合目の行者コバからは冬道は尾根をダイレクトに登っていく。この付近は鈴鹿でも有数の素晴らしいブナ林が広がる尾根だ。
見事な霧氷。
朝いちばんに上り始めると、冬はこのあたりで尾根の西側にも陽があたり始める。霧氷がキラキラ輝くのに、誰もが足をとめてしまうだろう。
いましばらくジグザグの登りが続き、水無山分岐、金名水分岐を過ぎると雄大な展望の広がる標高1,110メートルの綿向山山頂へ到着する。
1,000メートルの山とは思えない大スケールの展望を楽しむ。
正面に大きいのは雨乞岳。左奥はイブネ・クラシ。右奥にとがった鋭鋒は鎌ヶ岳。
しばしこの絶景に見とれる。今日は風もなく、吹きさらしの稜線に立っていても全く寒くない。
三角点と大嵩神社のある所は登山者達で賑やかだ。
この小さな神社は、伊勢神宮などと同様に、20年毎に麓の榧(カヤ)の木を用いて社殿を建て替える式年遷宮が仕えられているというから驚く。
しばし休憩したら、山頂を後に稜線を北へ向かうことにする。
なだらかな稜線は高低差もあまりなく快適な稜線。雪も腐らないほどよさの気温。
尾根上も霧氷が素晴らしい。
霧氷と雨乞岳。
「幸福ブナ」と名付けられたブナの珍変木。
自然の創造力には驚く。どうしたらこんな輪になるのだろう。幸せがくるかどうかはともかく、くぐってみた。
目指す竜王山分岐付近の山稜を見る。背の低い笹の稜線のため展望はすこぶる良いのだが、かつて綿向山から雨乞岳までは背丈を超す深い笹に覆われていたとはとても信じられない。
この稜線も素晴らしい霧氷でいっぱいだ。
雪の稜線歩きは楽しい。吸い込まれるような青い空の下、快適に尾根を行く。
まるで高山帯のような風景に、北アルプスの稜線を歩いてきたと人に言っても信じてもらえるほどの景色だ。
実はこの北の尾根こそが綿向山の一番楽しいところ。アップダウンがほとんどない白い稜線を雪を踏みしめ行くのは最高だ。天気が良ければ御嶽山や白山、北アルプスまで一望する解放感あふれる空中散歩となるからぜひ足を伸ばしていただきたいもの。
ただし、この先で分岐する雨乞岳へ続く途中のイハイガ岳への尾根には手ごわい岩稜が現れる難所があるなど、冬はレベルが数段上がるルート。間違っても踏み込まないこと。
視界の悪いときは竜王岳方面へ向かうとき、北尾根分岐付近で方向をしっかりと確認しないと要注意だ。
「霧氷」は「樹氷」と似て非なる現象
ところで「樹氷」と「霧氷」は名前も違うし出来方も違う。
東北地方などで見られる「樹氷」は過冷却された水蒸気が直接樹木の表面に昇華して凍結してできる。これに対して、綿向山で見ることが出来るのは「霧氷」。過冷却された霧粒が風によって樹に吹き付けられて付着し大きくなったものだ。鈴鹿山脈のように冬の日本海側から吹く強い季節風が吹く環境で、夜間に気温が大きく下がった時に出来る。それなりに湿気もないと成長しない。
だから、前日に確認することもできない。
狙いをつけていざ山に出かけて行っても、朝、天気が良すぎて気温が上がりすぎるようだと、すぐに溶けてしまい稜線にたどり着く時間にはなくなってしまう。
ブルースカイに輝く霧氷を見ることはなかなかに難しいのだ。
この日は滅多にない好条件、大気も澄んで遠望が利いた。伊吹山・霊仙山・御池岳は遥か彼方。中景に前年に縦走した雨乞岳からカクレグラへの長い稜線が見える。
山座同定。
振り返る綿向山山頂。
展望の稜線と別れ、竜王山への長い尾根に入ると、再び樹林帯に入ってひたすら下り、登り返しの繰り返しとなる。
途中振り返ると綿向山はずいぶんと遠くなっていた。
竜王山の山頂で休憩。ここからは雪もほぼなくなり安全圏。ひと下りで林道に出る。
あと一息で車、というところで…なんの変哲もない麓のあぜ道でコケてしまう。
仲間の間でしばらく笑いのネタになったシーン。終わりはずっこけだったのだけれども、樹氷に大展望、楽しい稜線漫歩と、冬の鈴鹿のエッセンスが凝縮された満足の1日だった。
この山はブナの新緑も素晴らしい。鈴鹿、というよりは近江の愛すべき「故郷の山」というのがぴったりのいい山だ。
(2016.1.31)
【綿向山】